<1>三瓶グリーンランド跡
<あずま屋 絶景スポット>
勢いよく回る回転ブランコ。子どもたちの歓声が聞こえてくるようだ。かつて三瓶山にあったレジャー施設「三瓶グリーンランド」。アマチュア写真家の和田為夫さん(72)(大田市久手町)は1978年5月に地元の撮影会で写した1枚を手に、「観光客でにぎわい、遊具は順番待ちの列ができていた」と振り返る。
グリーンランドは、三瓶山への観光バスを走らせていた益田市の企業・石見交通などが50年代前半、運営会社の石見観光開発を設立し、麓にある浮布池(うきぬののいけ)(同市三瓶町池田)の湖畔に作った。
同社OBらによると、「山の家」という名のキャンプ場としてスタートしたが、山すそに広がる敷地に遊園地やミニ動物園、ボート乗り場が次々と作られ、60年代半ばに三瓶グリーンランドと名を変えた。ちょうど三瓶山が国立公園に指定された頃のことだった。
地元の建設業、小谷正美さん(74)は、遊園地の基礎工事や遊具の設置を手がけた。「60年代後半から70年代にかけ、これから発展していくんだとみんな期待していた」と懐かしむ。
宿泊施設もあり、毎週末のようにダンスパーティーが開かれた。広島などから遊びに来る若い女性も多く、地元の男性と知り合って結婚したカップルもいた。
しかし、施設の老朽化や観光の多様化などで客が減り、86年10月に閉鎖。遊具が撤去された跡地は、雑木が茂り、心ない人が捨てたゴミであふれた。
「眺めのいい場所なのに……。荒れたまま放っておいては次の世代に悪い」。2008年夏、地元の住民たちでつくる池田地区のまちづくり推進協議会が35人で草木を伐採し、ゴミを撤去。2年半後には、石見特産の石州瓦で葺(ふ)いた休憩所「あずま屋」を完成させ、浮布池ごしに三瓶山を見晴らせる絶好のスポットとしてよみがえらせた。
協議会長の中間功さん(64)は三瓶山が国立公園に指定された年、中学生だった。「この山とともに育ってきたという思いがある。眺めると、気持ちが和み、癒やされる。これからも地域全体で守っていきたいね」
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{三瓶山} 大田市と飯南町にまたがる活火山。男三瓶山(1126メートル)、女三瓶山(957メートル)、子三瓶山(961メートル)、孫三瓶山(903メートル)など環状に並んだ複数の峰からなる。出雲国風土記の国引き神話では、神が海のかなたから島根半島を引き寄せた際に綱を留めた杭(くい)とされる。すそ野には北の原、西の原、東の原と呼ばれる草原が広がり、山全体の観光客数は年間約60万人。1963年4月、大山隠岐国立公園の一部として指定された。