俳優達がコントを演じるうえでのガイドラインが、この台本。守るのではなく、予想し得ない方向に超えていくための決まりごとだ。

人呼んで「NHKらしからぬ、しかしNHKにしかできない番組」。番組自体は2006年3月の特番が最初だけれど、始まりの始まりはその3年前。番組開発という部署が新設され、のど自慢を経て、広島支局でドキュメンタリーを撮り、渋谷に戻ってきてシブめの演芸などを手がけていた若手ディレクターが配属されたところから。“これまでNHKになかったものを作る”ということをテーマにさまざまな部署から一人ずつ集められた小所帯のチームだった。この番組のポイントは、この番組が生まれた背景を語ることで、ほぼ理解することができる。最初のパート、少し長くなるが聞いてみよう。


―サラリーマンNEOはどういうきっかけで生まれたのですか? 

われわれの最初の話題は “NHKには何が足りない?”ということでした。誰かが“NHKには笑いがない”と言われたと、言いました……確かに。大衆演劇的な笑いは脈々とあるんですが、若い世代に訴えるシュールな感覚の笑いはなかったんです。でもNHKでそれは現実的ではないと思っていました。同じころ深夜にTBSでやってたマイケル・J・フォックス主演の『スピンシティ』っていうシチュエーションコメディを観てたんです。別に好きではないけどなんか観ちゃうんですよね。それがいつしか楽しみになるんですが、最終回にマイケル・J・フォックスが、自身のパーキンソン氏病を告白するんです。それを観たときに、“なぜこれにひきつけられたのか”がわかったような気がしたんです。たぶん彼が何も言わずに、その命を懸けて笑いを届けようとしている姿勢のせいだなって。それで僕らは知らず知らず勇気付けられてたんだって。だったら、僕らにはそこまではできないかもしれないけれど、ただ“笑いをやる”ということだけで怯んだり、卑下したりするのではなく、真剣に取り組んでみようと。そうすれば視聴者にも届くんじゃないかと思って、シチュエーション・コメディの企画を出したんです。


―それがサラリーマンNEOですか。 

いえ、まだです。その企画はNGになりました。で、紆余曲折して、結果的に“偉人をコントで振り返る”という企画が通りました。前の企画はイメージが伝わらなくてボツになったのですが、これが通ったのは、なぜかカルロス・ゴーンさんが出てくれることになったから。で、『ワンダフル・ライフ』という番組を作りました。このときゴーンさん役をやったのが生瀬(勝久)さんだったんです。実質そこから始まってるんですが。ゴーンさんだから面白いんじゃないかという説もあったんですが(笑)、このときに“コントという手法が成立するな”ということが確認できたんだと思うんです。それで今度はテレビ局を舞台にしたコント番組の企画を出しました。ちょっと楽屋落ち的なところもあって、“どうだろう?”っていう反応でした。それで他に何かないかなと考えたのがサラリーマン社会。ちょうどそのころ株価も最低で、お先真っ暗。『スピンシティ』で僕自身がそうだったように、サラリーマンを勇気付けることができるんじゃないかと考えたわけです。


―企画を通すことさえ並大抵じゃない感じがしますが、いざ実行するうえで苦労された点って何ですか? 

理解が得られないことですね。これにはふたつの意味があって、ひとつには、『テレビサラリーマン体操』とか『はたらくおじさん』というセルフパロディーみたいな作品があるんですが、これをやっていいのかどうか誰にもわからないという点。それから、もうひとつはこちらが考えてることが理解されない点でした。前例がないから、サラリーマンコントっていうと、植木等さんのイメージが浮かぶみたいなんですね。だからたとえば「サラリーマン体操」でいうと、あのテレビ体操の画をスーツでやるのが面白いっていうことを、面白いのかどうかわかってもらえないんです(笑)。こちら側は面白いイメージがあるわけで、まあ後は腹のくくり方だけですよね……とりあえず観てくれ、観てくれたらわかると。


―最初からイメージどおりにいけたんですか? 

『サラリーマン体操』に関してはそうですね。サラリーマンがスーツでやるっていうイメージはあったんですが、問題は誰がやるか。普通に考えたら、講師の先生を呼んできて、目立たない3人がやるのがいいんじゃないかと思うんですよね。でもそこに“もうひとつ何か必要だ”と思ったときに、たまたまコンドルズの踊りを観たんです。 “おおっ!”と近藤良平さん含めてみなさんお呼びしたら、キャラクターの濃い方ばっかりで。それが笑わずにまじめにやってるっていうことで、僕のイメージを超えてしまいました。そこにさらに彼らのアイデアも加わって……そういう時は企画がうまくいきますね。


―キャスティングもイメージどおり……いや、イメージを超えましたか? 

これは難しかったですね。最初は何十人と断られました。当たり前ですよね。番組が知られていないですし、オファーのとき「コントである」と告げると「ふざけるな!」というような反応をいただいたこともあります。私自身がイメージにあわせてキャスティングし、出演交渉の電話もするんですが、たとえば宝田明さんは、オープニングを作るときに、ある程度年配の方で、踊れてそれがカッコいい方という条件で声をかけさせてもらったんです。ああいう洒落っ気の利いてる方って、周囲のスタッフも洒落がわかる人が多いんですね。興味を示していただいて、わざわざ名古屋の映画のロケから戻られて、深夜の撮影に参加してくれました。平泉成さんもドラマでは渋い脇役だし、沢村一樹さんも甘い二枚目でしたけど……それまでのイメージを一新するようなことを、NEOでやってくださいました。今ではキャストのみならず“新しいことをやってみたい”という方が集まってますね。

powered by Yahoo!
    JAPAN

 

この記事のウラビコを見る

ご感想をお寄せください

当フォームより、ご意見・ご感想をお寄せください。
いただいたご意見・ご感想は番組制作者へお届けする場合がございます。

ご感想を入力
番組data
番組名 サラリーマンNEOシーズン2 ジャンル バラエティ・音楽
放送局 日本放送協会
放送日時 総合テレビ 毎週火曜 23時00分から23時29分
総合テレビ(再放送) 毎週金曜 25時40分から26時09分
衛星第2(再放送)  毎週火曜 8時30分から8時59分
番組URL http://www.nhk.or.jp/neo/
主なスタッフ チーフ・プロデューサー・山田良介、ディレクター・吉田照幸(敬称略) スタッフ数 約40名(内制作スタッフ 4~5人)
主な出演者 生瀬勝久、沢村一樹、宝田明(敬称略)その他多数
放送開始日 2006年3月

最新のインタビュー