日本人で世界的に名の知れている神学者が何人かいますが、その内の1人が小山晃佑(こうすけ)という方です。かつて一度だけ直接講演をお聴きする機会がありましたが、主に著書を通じて存じ上げています。
この方は若い頃タイ国へ宣教師として行かれ、チェンマイにあるパヤップ大学の神学部で教えておられました。一度機会が与えられてその大学に行くことがあったときに、小山師の古い写真が廊下に掛けられているのを発見しました。
その後シンガポールやニュージーランドの神学部で教えられて、最後はニューヨークのユニオン神学校で長い間教鞭をとられました。2009年に79歳で召天されています。
この方の神学の特徴は、印象深い象徴を用いて聖書の真理を現代に伝えようとされていたことだと思います。例えば、日本がかつて天皇を神として祭り上げて軍国主義に走っていった時代のことを、「きゅうり畑のかかし」というエレミヤ書10章5節の御言葉になぞらえています。
かかしというのは鳥などが作物を取りに来るのを恐れさせて近寄らせないために立ててあるものですが、人間がそんなものを恐れることは愚かしいことです。しかしながら、人間は天皇を神として祭り上げて、これを恐れ、国民全体が右へ倣えという教育を徹底して教え込んで戦争に突入させてしまった。
きゅうり畑のかかしに踊らされていたようなものだ、なんという愚かなことを人間はするものか、というお話をされたことがありました。かかしを見るたびにそのお話を思い出します。
また、ある論文の中で、聖書の神は「時速5キロの神」であるという言葉を造っておられます。時速5キロというのは水牛が歩く速さです。実にゆっくりとしています。しかし、水牛の速度で歩いてみると辺りの景色がよく見えるし、道端の小さな花にも気が付くし、人々と話をすることもできる。
ところが、文明はできるだけ速くということを美徳としてきた、そのために現代の人間は大切なことを見失っている。聖書の神様は人や自然をいつくしみ、深く愛し、関係を創られる神であることを言わんとされました。鋭い現代文明批判です。「きゅうり畑のかかし」にしても「時速5キロの神」にしても、実に印象深い象徴的イメージではありませんか。
◇
福江等(ふくえ・ひとし)
1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001年(フィリピン)アジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)など。