東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 国際 > 紙面から > 12月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【国際】

<北朝鮮はいま 金正恩体制5年>(中) 自給自足強いる国

平壌市内の「バッタ市場」と呼ばれる小規模な路上市場。北朝鮮当局は今年9月、バッタ市場の取り締まりを強化した=2010年に入手した映像から

写真

 「共和国(北朝鮮)は日本の植民地時代より、ひどい封建搾取制度になってしまった」。首都・平壌に住む中国との貿易商宅に十月初め、顔見知りの地元保安員(警察官)が訪れた。不満を漏らすと、「ところで今月もよろしく」。いつものように、カネの無心に来たのだった。

 北朝鮮では、朝鮮労働党や政府の官吏が地位に応じて「革命資金」と呼ばれる上部機関への上納金を求められ、一般住民にも徴収が及ぶようになっている。金正恩(キムジョンウン)党委員長の外貨獲得拡大の掛け声が背景にあり、保安員によると毎月七十五米ドル(約八千五百円)がノルマ。貿易商は日常生活で支障が出ないようにと、この日もいつものように保安要員のポケットに数ドルを押し込んだ。

 「連中も上納金集めに必死。韓国ドラマの視聴など違法行為を黙認する代わりに、賄賂を受け取るのは当たり前。それでこの国は回っている」(貿易商)

 正恩体制発足後、個人の市場活動は大幅に緩和された。物品が自由に取引できる市場は全国で四百余りに上る。多くの住民が「金正日(キムジョンイル)総書記時代より生活は良くなった」と感じているのは、市場取引が経済を活性化させているからだ。

 一般的な北朝鮮労働者が公的に受け取る月給は千五百ウォン(約十九円)〜六千ウォン。市場ではコメ一キロ当たり約五千ウォン、卵一個五百〜千五百ウォン…。月給だけでは生活ができず、人々は収穫した農作物や中国から持ち込まれた物品を市場に売るなどさまざまな副業で生計を立てている。

 市場では、極めて少額の取引を除いて、米ドルや中国元が主要通貨となっている。北朝鮮ウォンは信頼を失って久しい。

 生活に比較的余裕がある先の貿易商でさえ「(旧正月などの)名節以外に休みなんてない。国家は住民のために何もしてくれない」とこぼす。二月から五月にかけて展開された、建設や生産現場への国民総動員「七十日戦闘」の際には、労働現場に駆り出され、市場での活動が難しくなった住民が不満を募らせた。

 半面、経済活動の幅が広がったことで、商才にたけた「トンジュ」と呼ばれる新興富裕層が生まれた。中国から輸入した建設資材を公的機関に高値で売り付けたり、企業の車両を借りて運輸業を営んだりして巨額の富を蓄えた人もいる。中には、中国・北京郊外にマンションを所有するトンジュまでお目見えし、貧富の格差は広がる一方だ。

 市場経済の拡大は、社会主義を掲げる北朝鮮にとって、国家の統制が効かなくなる危機をはらむ。しかし、当局が住民の生活を保障できないまま強引に統制を強めれば、住民の激しい反発を招く恐れがある。二〇〇九年十一月に突然断行されたデノミネーション(通貨呼称単位の変更)に伴う市場統制は、相次ぐ暴動を引き起こした。

 国際社会の制裁が強まる中、外貨不足で、抜本的な経済状況の改善は難しい。住民生活に責任を持たず、自給自足を強いる「放置国家」の前途には、暗雲が垂れ込める。 (北京・城内康伸)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】

PR情報