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記事 18件
  • 『コードギアス』と『エウレカセブン』の対比から見えてくるもの(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(5))【不定期配信】

    2017-03-16 07:00  
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    「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回は、2000年代半ばの佳作『コードギアス』と『エウレカセブン』を対比させながら、両作品がロボットアニメ史において果たした役割を考察します。(※今月末3/30(木)20:00より、石岡さんの月1ニコ生「最強☆自宅警備塾」も放送予定! 話題のアニメ『けものフレンズ』を取り上げます。視聴ページはこちら)

    『コードギアス』の達成を『エウレカセブン』との比較で考える
     今回は、今世紀のロボットアニメを考える上でもっとも重要なタイトルである『コードギアス』の達成について考えてみたいと思います。
     ロボットアニメのビッグタイトルはどうしても『ガンダム』『マクロス』という老舗シリーズに集約されがちですが、それでもいくつかオリジナルタイトルの佳作が定期的に生まれています。中でも反響の大きかったタイトルを挙げると、『交響詩篇エウレカセブン』(2005-2006年)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006-2009年)、『天元突破グレンラガン』(2007年)あたりが思い浮かびます。あとは河森正治監督作のため『マクロス』と関連付けられがちですが、放映後にネタ人気が出てシリーズ化された『創聖のアクエリオン』2005も入るでしょう。このように、なにげにゼロ年代中葉はロボットアニメが活気付いていたわけですが、ネット動画の時代となったここ十年のアニメをめぐる状況との相性が様々な点で良くないのでしょう。ここ十年のアニメ状況を象徴する京アニもシャフトも、ロボットアニメにはあまりかかわっておらず、例外ともいえる京アニの『フルメタル・パニック! The Second Raid』(2005年)がなんとなく孤立した存在となっていることも象徴的です。
     その中では『コードギアス』を考える上で最適の比較対象が『エウレカセブン』だと考えています。対比列伝はどうしても一方を下げることになりがちなので、以下、どちらかというと『エウレカセブン』の残念な部分にフォーカスを合わせる比較になりますが、予め『エウレカセブン』の良さについて述べておくと、一部間延びはあったものの一年間全50話という、長丁場の物語を描ききった上、ボーイミーツガールものとしての掴みの鮮烈な印象もあってか、続編や後続作をいくつも生み出した事実は見逃せません。続編を含めた後続作(一例を挙げると2015年の『コメットルシファー』)がことごとくうまくいっていないのも事実ですが、そこから遡ることで元祖である『エウレカセブン』の良さが時を経ることによって見えるようになったことは大きいでしょう。
    両作のOP・EDから見えてくる対比
     さて、『エウレカセブン』と『コードギアス』にはわかりやすい比較基準があって、それはどちらも最初のオープニングのアーティストがFLOWで共通しているんですね。『エウレカセブン』の「DAYS」と『コードギアス』の「COLORS」は、曲調も近いところがあり、映像込みで比較すると興味深い対照性をみせていることがわかります。一般に初期OPの映像は作品コンセプトを概観するものが多く、シナリオの「構造」が表に出ているんですね。
     「DAYS」が使われている『エウレカセブン』のOP1でわかるのは、河森正治デザインのメカがサーフィンするという『マクロス』から発展させた新規要素、そして人間関係の配置が『ファーストガンダム』を意識していること(三人組の孤児の存在に顕著です)です。さらに「アゲハ構想」という世界の謎関連のイメージがフラッシュカットで切り替わり、そこに神話学の祖フレイザーの『金枝篇』が一瞬見えたりする部分では、技法込みで『エヴァ』要素を持ち込んでいる、というように、過去のロボットアニメヒット作の要素を盛り込んだ上で、ボンズアニメのボーイミーツガールものでおなじみの「ウユニ塩湖っぽい場所で手をつなぐ男女」でまとめています。要所要所でエッジの利いたアクションもあり、模範的なロボットアニメの動きをみせているといってよいでしょう。
     他方「COLORS」が流れる『コードギアス』のOP1はどうでしょうか? 日本地図に照準が向けられるイメージにタイトル画面が重なり、続けてルルーシュの瞳がアップ、そしてギアス発動のおなじみの映像が出てきます。これはニューロンがつながるイメージとしてハリウッド映画でも多用されるものですが、ここのダイナミズムはロボットの運動ではなく「脳内イメージ」の可視化そのもので、そこに日本占領をめぐる戦争のイメージが静止画で重ねられていきます。ロボットアニメに定評のあるサンライズ作品とはいえ、深夜枠なので作画リソースはそれほどでもなく、止め絵が中心なのですが、家族状況を背景に仮面の男として立ち上がるルルーシュの反逆を示す構成は、まさにシナリオの初期設定を効果的にみせています。続けて現れる、占領された日本でゲリラ活動を行うメンバーをカレンを中心にまとめる一方で、ブリタニア帝国軍の絢爛豪華なメンバーをみせるところは、統治被統治の関係を貧富の差と重ねるよくある対立構造といえるでしょう。

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  • 90年代的な「燃え」を巧みに更新した『ガンダムSEED』『スクライド』『ガン×ソード』(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(4))【不定期配信】

    2017-02-16 07:00  
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    「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回は、ゼロ年代前半〜半ばに人気を博し、今世紀のロボットアニメ的イマジネーションの基調を作り出した『ガンダムSEED』『スクライド』『ガン×ソード』を考察します。
    (※来週2/23(木)20:00より、石岡さんの月1ニコ生「最強☆自宅警備塾」が放送予定! 続編制作も発表され話題の『コードギアス』を取り上げます。視聴ページはこちら)

    『無限のリヴァイアス』と『伝説巨神イデオン』のミッシング・リンク
     今世紀のロボットアニメの位置付けを理解する上では、90年代末のポストエヴァ作品群の要素がどのようにして21世紀に流れ込んでいったかを整理することが重要です。そこで今回は『機動戦士ガンダムSEED』のキャラクターデザイナーで知られる平井久司が関わったアニメの系譜と、谷口悟朗監督作品との関係を検討していきたいと思います。
     『無限のリヴァイアス』については前回も触れましたが、そのとき考察したのは、ティーンズの人間関係では当然生じる「性と暴力」をめぐるテーマ系についてでした。『ガンダムSEED』や『蒼穹のファフナー』にもこのテーマ系は受け継がれており、平井久司絵のアニメについて、「ドロドロした人間関係が繰り広げられる」という漠然とした印象を持つ人もそれなりにいるのではないでしょうか。
     ただ、そこに入る前に前回語り残したこととして、『リヴァイアス』の別の側面、すなわちロボットアニメとして興味深い点についてまず考えてみたいと思います。先日『リヴァイアス』を見返してみたところ、思いのほか『伝説巨神イデオン』テレビシリーズ(1980-1981年)の後半と近い、という感触を持ちました。一般に『リヴァイアス』は『イデオン』と関連付けられることはあまりありませんが、たとえば本船リヴァイアスとロボットのヴァイタル・ガーダー、そのどちらにクルーが乗り込むのかによって、分かれたクルーのそれぞれが疑心暗鬼に駆られ、権謀術数がうごめくという作劇は、『イデオン』のギスギス感と似た性質があります。『イデオン』では地球人とバッフ・クランのいずれもが、閉鎖された環境でなかなか結束できず相互不信に陥っていく描写がしばしばみられました。
     また、『リヴァイアス』も『イデオン』もともに、ロボのパワーが実質的に無敵に近そうでありつつも、だからといって相手の攻撃をひたすら無双状態で倒すというわけにはいかず、弱点を的確に突かれることで苦戦を強いられる展開が目立ちます。その結果バトルにつねに悲壮感が漂う点でも、『リヴァイアス』と『イデオン』は共通しています。『イデオン』の場合は登場人物が全滅する結末がよく語られますが、『リヴァイアス』の最終話付近のバトルを見ていると、「外側に大人社会があるがゆえにかろうじて全滅を免れた」という印象を拭えないのですね。
     もちろん、大人社会から隔絶されたティーンズ集団内での抗争と協力のドラマには、ゴールディング『蝿の王』というダーク版『十五少年漂流記』の傑作や、楳図かずお『漂流教室』といった先行作品があります。ロボットアニメにおいても、当初の『機動戦士ガンダム』のプランをよりジュブナイルものとして展開した『銀河漂流バイファム』(1983-1984年)という佳作がありますが、無茶を承知で『リヴァイアス』を過去のロボットアニメと関係付けるならば、「ダーク版バイファム」に「マイルド版イデオン」の味付けをほどこしたもの、という見立てが成り立つと考えています。
     こうした要素が、『リヴァイアス』をポストエヴァ期ロボットアニメの中でも興味深いものにしているのではないかと思います。私見では、『リヴァイアス』では敵サイドの戯画化が過剰なところが惜しまれるのですが、敵が送り込んでくるユニット群には、若干『エヴァ』の使徒のような「様々な可能性を一つずつ試し、潰していく」感覚があります。
     以上の見立てを踏まえた上で、『リヴァイアス』における谷口悟朗監督の達成を次のようにまとめることができると思います。高橋良輔監督『ガサラキ』の副監督を努めた後、初監督作となった『リヴァイアス』において、まさにエヴァンゲリオン風の演出や作劇がロボットアニメを席巻していた時期に、『エヴァ』の原点の一つである『イデオン』の構成要素にまで遡り、かつ「少年少女が戦うことの意味」を、戦闘行為のみならず「サヴァイヴァル」すなわち「生き抜くこと」として捉え直し、そこで生じる諸問題を繰り広げたたのではないか? ということです。『リヴァイアス』および『ガサラキ』に含まれる様々なモチーフが、後の『コードギアス』で展開されていることを考えると、非常に興味深いのではないかと思っています。
    『ガンダムSEED』と平井久司のキャラクターデザイン
     すでに指摘してきたように、今世紀のロボットアニメの基調を生み出した二人の重要人物として、キャラクターデザイナーの平井久司と、演出・監督の谷口悟朗を挙げることができるでしょう。この二人は『無限のリヴァイアス』、『スクライド』(2001年)で共に仕事をしており、まさに世紀転換期のこの二作こそが、その後二人が活躍する基礎になったのではないかと考えています。そこで、厳密にはロボットアニメとは言えない『スクライド』も併せて考察することにしましょう。
     谷口悟朗の監督作品は『リヴァイアス』、『スクライド』、『プラネテス』(2003-2004年)、『ガン×ソード』(2005年)という順番で続き、この流れで得た経験値がすべて『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006-2007年)に投入され、今世紀のオリジナルロボットアニメ最大のヒットとなりました。

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  • ティーンズの「性と死」を描けるジャンルとしてのロボットアニメ(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(3))【不定期配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.773 ☆

    2017-01-19 07:00  
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    ティーンズの「性と死」を描けるジャンルとしてのロボットアニメ『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章今世紀のロボットアニメ(3)【不定期配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2017.1.19 vol.773
    http://wakusei2nd.com


    「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回はロボットアニメの「性と死」にまつわる表現の歴史に触れつつ、「多彩なドラマ展開が可能なブースター」としての側面を論じます。
    (※あす1/20(金)20:00より、石岡さんの月1ニコ生「最強☆自宅警備塾」が放送予定! 2016年秋クールのアニメを徹底総括、今期の期待作についても語ります。視聴ページはこちら)
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:前世紀ロボットアニメを支えた「ホビー」としてのプレイアビリティ(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(2))

    ■ガンプラは体系性への欲望を喚起する
     前回は、ガンプラの1/144スケールについて、手頃な大きさゆえにたいていのメカが模型化されていたことによって、ある種の「コンプリート欲」を喚起するものとなっていた話に触れました。ガンプラのそうした側面をよく示すキットが通称「武器セット」と呼ばれたモデルです。ガンプラ熱が最高潮のときには、ガンダムやザク・グフなどの人気モデルが手に入らず、この武器セットだけ先に買う人もいたほどで、私もその一人だったりします。

    ▲1/144 モビルスーツ用武器セット (機動戦士ガンダム)
     ファッション好きにみられる購買活動として、仮に靴が気に入った場合、「靴合わせ」で服装一式を新調する人が出るなど、付属物とされやすいアクセサリーの側が「本体」を規定するケースはまま見られるわけですが、ガンプラにおける「武器セット」も、まさにそうした役割を演じていたわけですね。『オルフェンズ』でもこの「武器セット」の伝統は健在で、武器ユニットだけの「オプションセット」が複数発売されています。

    ▲HG 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ MSオプションセット7 1/144スケール 色分け済みプラモデル
     現在ではさすがに「本体よりも先に武器を買う」ような購買活動はまれだと思いますが、ここには「コレクション」を駆動する重要な要素があると思います。マイナーなオプション武器が揃うことから生まれる「体系性」への欲望こそが、ガンプラが一つのワールドを形成した重要な理由のように考えられるからです。ちょうどレゴブロックが「なんでも作れるのではないか」と思わせるように、ガンプラには「今ここ」にある模型だけでは完結せず「その次」へと駆り立てる要素に満ちています。単体で興味を惹くロボやメカは他の作品でも生み出されていますが、メカ群のトータルな集合体そのものの魅力を、ガンダム以外のロボットアニメが作り出すことはできなかったように思います。
     現在このような「コンプリート」への欲望を担っているのは、トレーディングカードであったり、収集系のRPGであったりするわけで、ロボットがそうした役割を演じるために超えなければならないハードルはかなり高いと言わざるを得ません。ガンダムにおいてなぜ執拗に「宇宙世紀もの」が制作されるのか、また『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の「ブグ」のような、人によっては蛇足と感じられるモビルスーツがなぜ増殖していくのか、というその増殖原理は、体系性への欲望にあるんですね。個別のエピソードが少しぐらい崩れようとも、モビルスーツの体系の方に魅力を感じる人がいるわけです(例えば個人的に『機動戦士ガンダムUC』のネオ・ジオングはあまり好きではないのですが、あの造形も『逆襲のシャア』における「アルパ・アジール」の系統を意識しており、「体系を埋める」造形ではあるわけです)。
    ■ガンプラ視点で捉える『∀ガンダム』の達成
     このように、ガンダムのモビルスーツが、プラモを介して体系性を喚起させるものであることについては、『∀ガンダム』(1999-2000年)のコンセプトが批評性を備えた画期的なものとなっているので少し触れてみたいと思います。『∀ガンダム』は、今では日常語となった感のある単語「黒歴史」を生み出したことで知られています。「黒歴史」は有史以来の戦争の歴史として位置付けられており、そこに代々のガンダムシリーズが並列的に含まれるわけですが、作品世界ではその歴史は「忘却されている」という設定です。しかし他方で、数々の過去のモビルスーツが遺跡として埋まっていて、それを発掘して使っているという秀逸な設定があります。とりわけ、ガンダムを知っている者からはどうみても「ザク」にしか見えないモビルスーツを掘り出した地球人が、勝手に「ボルジャーノン」と名付けるところが批評的に興味深いと言えるでしょう。言葉の記憶が失われてしまっても、モビルスーツというガジェットさえ健在であれば、そこに勝手な命名を施して好き勝手に使うことができるという、「記憶を掘り返すこと」の魅力を示しているように思うからです。他方月に住むムーンレィスは「正しい記録」を保持しているので「ザク」と呼んでおり、同じモビルスーツを前にした言葉の齟齬が、文化摩擦としてうまく描かれているわけです。

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  • 前世紀ロボットアニメを支えた「ホビー」としてのプレイアビリティ(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(2))【不定期配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.754 ☆

    2016-12-15 07:00  
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    前世紀ロボットアニメを支えた「ホビー」としてのプレイアビリティ(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章今世紀のロボットアニメ(1))【不定期配信】
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    2016.12.15 vol.754
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、アニメ史におけるロボットアニメのプレゼンス確立に貢献した2つの要素、「プラモデル」「ゲーム」に着目して解説します。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:20世紀のロボットアニメを概観する(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(1))

    ■『エヴァ』『コードギアス』で視聴者が注目するのは「ロボット」ではない
     前回は簡単に前世紀のロボットアニメ史の流れを一瞥してみました。予告でも触れた論点ですが、今世紀のアニメファンにとってロボットアニメの存在感はかなり低下しています。それでは、かつてアニメを代表するジャンルとされ、今でも精力的に作られ続けているロボットアニメの魅力とはなんだったのでしょうか? 「カッコイイ」「全能感を満たせる」等、個別の説明はそれぞれ重要ですが、興味深い事実として、今なおロボットアニメについては、大張正己をはじめとした職人アニメーターの匠の技を賞賛する文化が生きていることが挙げられます。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(2015、2016年)でも、メカ作画が重要になる要所要所で、1980年代から活躍している大張正己が参加していることは有名です。彼は『スパロボ』でもしばしばメカ作画を担当していますが、前回『スパロボ』プレイヤーの固定化・高齢化傾向に触れたように、クリエイターも消費者も、今なお80年代からの流れを受け継いでいるところは否めません。
     さて、前回、80年代前半のロボットアニメの多くがポストガンダムとしての性格をもち、90年代後半〜00年代前半はポストエヴァとしてまとめられると指摘しました。ではそれ以降現在に至るロボットアニメはどうでしょうか?「ポストガンダム」「ポストエヴァ」というまとめが、個々のタイトルに愛着を持つ人の強い反発を起こすことは承知の上で(例えば私自身は『イデオン』を「ポストガンダム」と呼ぶことについては、違和感もありますが、便宜的な大枠ではそう呼んでも良いという感覚を持っています)、00年代後半〜10年代のロボットアニメをあえてまとめるならば、「ポストギアス」と呼べるのではないかと考えています。
     2017年から『コードギアス』の続篇企画が動くことが発表されていますが、このことは、逆説的にここ十年の新規オリジナルタイトルの中では最も存在感があった事実を示しています。「今世紀のロボットアニメ」を考えると、ガンダムやマクロスなど定番タイトルを除けば、今世紀初頭は「ポストエヴァ系のタイトル」そして2006-2008年の『コードギアス 反逆のルルーシュ』、そして「ポストギアスの模索」とまとめられるように思います。大半の「ポストギアス」狙いタイトルが挫折するなか、当のギアスの新シリーズが動き出したというイメージです。もちろんいくつかランダムに上げるだけでも『交響詩篇エウレカセブン』(2005年)、『ゼーガペイン』(2006年)、『天元突破グレンラガン』(2007年)、『銀河機攻隊マジェスティックプリンス』(2013年)等々、一定のファンを得たタイトルがありますが、ロボットアニメファンプロパーを超えた影響力という点ではやはり、『コードギアス』の存在感が際立っています。
     ただ、同時に触れなければならないのが、『エヴァ』の時点ですでに、多くの視聴者の関心がロボットにはなかったという事実です。1990年代に典型的なサイコドラマとしての側面が、爆発的ヒットとなった理由としては重要でしょう。『コードギアス』に関しても、ロボットである「ナイトメアフレーム」の存在感としては、メインキャラクターの一人枢木スザクが操る「ランスロット」の発進ポーズが最も有名で、他の印象はそこまで大きくないのではないでしょうか。個人的には紅月カレンが乗り込む「紅蓮弐式」なども興味深いのですが、もっぱら『DEATH NOTE』の夜神月を彷彿とさせる主人公ルルーシュをはじめとするキャラ、そしてルルーシュが床を崩したりギアスで他人に命じる描写の印象が顕著です。しかしもちろん、『コードギアス』は突然変異的に出てきたわけではなく、ロボットアニメとしての系譜も見逃すわけにはいきません。実際のところ、『コードギアス』には、野心的ながらも一般にはアピールしなかった高橋良輔監督の『ガサラキ』(1998-1999年)のリベンジとしての性質をみることができます。『ガサラキ』は途中で反米クーデターのモチーフが肥大化してしまった感があるのですが、同作では副監督を努めた谷口悟朗が、『コードギアス』では諸勢力の政治的利害関係をひたすらシャッフルした結果、例えば日本にとっての敵国をアメリカではなく架空の「ブリタニア帝国」とすることで、政治的読解という点では右派も左派も「等しく逆撫でする」ことに成功しました。
     けれども一般的にみるならば、ロボットアニメの人気作をロボットの魅力のみから語ることが困難であるという、一見逆説的な状況が当たり前となって久しいといえるでしょう。しかし前回予告したように、ここで一旦、『ガンダム』がもたらしたロボットへの関心がどのような展開を辿ったのかについて、様々な「男児向けホビー」の観点から見ていきたいと思います。
     なお、ホビーを性差で規定することについては議論の余地がありますが、以前キッズアニメの章で「女児向けアニメ」の射程について述べたときと同様の便宜的な区分と考えていただけると幸いです。私自身は男女に明確に向けられたコンテンツを出来る限り「両方」触れるようにしていますが、過去に遡れば遡るほど、アニメにおける性差の規定が大きなものであったことを思い知らされます(かつてはアニソンの歌詞に「男の子だから」「女の子だから」がしばしばみられたものでした)。
     以下、前回「ロボットアニメ」に関して前世紀から今世紀に至る流れを簡単に見てきたのと同じ時代を、主としてプラモデルとゲームに即して辿っていきたいと思います。
    ■ガンプラ市場の大きさが「宇宙世紀ガンダム」の続編企画を支えた
     ガンダムシリーズ最新作『鉄血のオルフェンズ』の反響についてひとつ興味深いことがあります。視聴率やソフト売上という点では必ずしもブランド力に見合っていないという見解もあるのですが、主役機「ガンダム・バルバトス」をはじめとして、「ガンプラ」の売上という点ではかなり好調であるという事実です。
     そもそも80年代のロボットアニメブームはほぼ『ガンダム』の存在や、再放送中に爆発的に売れた「ガンプラブーム」の余波という側面があるのですが、プラモデルというホビーの世界が、アニメから半分自律した世界を形成していたことが、興味深い展開を生みました。
     現在に至る『ガンプラ』のクオリティの奇形的ともいえる発展についてはよく知られていますが、前回「リアルロボットアニメ」の典型として挙げた『太陽の牙ダグラム』は、もっぱらプラモデルの売上の力によって放送延長となり、75話という長期アニメとなりました。現在では後続の『装甲騎兵ボトムズ』の方がアニメ作品としての存在感は大きいのですが、80年代のガンプラブームの直撃世代である私の印象としては、『ダグラム』のプラモデルは、デザイナー大河原邦男の無骨なデザインがいい感じに出ていて、ガンダムをよりリアル寄りにしたメカが魅力的でした。

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  • 20世紀のロボットアニメを概観する(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章 今世紀のロボットアニメ(1))【毎月第3木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.735 ☆

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    20世紀のロボットアニメを概観する(『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章今世紀のロボットアニメ(1))【毎月第3木曜配信】
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    2016.11.17 vol.735
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。ここからのテーマは「今世紀のロボットアニメ」。今回はプロローグとして、ロボットアニメを把握する上で重要な「ガジェット性」について、前世紀の様々な事例を挙げて論じます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:アニメが描く「青春」の現在――『心が叫びたがってるんだ。』と『君の名は。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(6))

    ■戦後アニメ史と並走してきたロボットアニメ
     「アニメーション」一般から区別される意味での日本の「アニメ」が、1963年1月1日放映開始の『鉄腕アトム』にはじまるという見方は比較的共有されていると思います(もっとも当時は「アニメ」とは呼ばれていなかったわけですが)。興味深いのは同年秋に『鉄人28号』もアニメ化されていることで、数多いアニメジャンルの中でもロボットアニメは、日本のアニメ史とほぼ重なる歴史的広がりを持っています。とはいえ現在ロボットアニメとみられる作風の原点は『マジンガーZ』(1972-4)でしょう。このあたりの事情は、本メルマガで連載されている宇野さんの『京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録』で詳しく解説されています。
    (参考)
    京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録 第7回 〈鉄人28号〉から〈マジンガーZ〉へーー戦後ロボットアニメは何を描いてきたか
     多くの場合自律型ロボットであることは稀で、主人公が操縦する乗り物としての性質をもつ超兵器であることも重要な特徴です。このジャンルの代表作『機動戦士ガンダム』が「モビルスーツ」という呼称を用い、厄介なロボット定義論から距離を置いているにもかかわらず、総称としてはざっくりと「ロボットアニメ」としてまとめられてしまうのも興味深いところです。それはおそらく、『ガンダム』のヒットを受けて1980年代に数多く作られた後続作が、それぞれの世界観に合わせて「アーマードトルーパー」(『装甲騎兵ボトムズ』)や「オーラマシン」(『聖戦士ダンバイン』)といった名称を増殖させすぎたことも一因でしょう。「ようするにこれらは全部ロボット」なのだという直観の方が正確な定義に勝ったわけです。
     私がロボットアニメにおいて重要だと考えているのは、ミリタリーの想像力をかすめつつも、そこから逸れていく展開がしばしばみられるところです。本章の話題の一部は『視覚文化「超」講義』の4-3「ロボットアニメの諸相とガジェットの想像力」で語ったことと重なるので、詳しくはそちらを参照してほしいのですが、一点だけ要点をまとめると、しばしば男性オタクの欲望と重ねられてきた「メカと美少女」というキーワードとの関係を追うことで、ロボットアニメの現状を考えることができるのではないかという見通しを持っています。ロボットアニメは現在でも数多く制作され続けていますが、特に若いアニメファンのニーズと合致することが少ないジャンルとなっている上、アニメファン=男性オタクという等式を作れるという幻想がそもそも成り立たなくなっています。そうした現状をふまえつつ、この章では「今世紀のロボットアニメ」について分析してみたいと考えています。
    ■前世紀ロボットアニメの「基準作」として機能した『ガンダム』と『エヴァ』
     「今世紀のロボットアニメ」という本章のテーマを考える上で、やはり前世紀の1990年代までの展開を簡単に整理しておく必要があると思います。とりわけ私が注目したいのは、20世紀ロボットアニメの「ガジェット性」です。
     とりわけ1960、70年代のロボットアニメは、少年(後に少女も)を軍隊とは別の手段で活躍させるために最適な枠組として選ばれていたように思います。少年探偵ものが、警察に属することなく捜査を行うのと似ていて、軍隊組織に属さない一種の「特殊部隊もの」としての性格を帯びた作品が多いんですね。少年少女が大人以上に大活躍しなければならないというジャンル的な要請は、昔も今も「不自然だ」として嫌われることが多く、しばしばミリタリーマニアが「おっさんが活躍するアニメ」を求める声を上げているのをネットなどでは目にしますが、実際のところ、日本ではダイレクトな軍隊ものにはせずにそこを「やや迂回する」方が好まれているわけです。このことは萌えミリタリージャンル最大のヒット作『ガールズ&パンツァー』が徹頭徹尾「部活物」として描かれていることをみれば明らかでしょう。というのも、ここをリアリズム寄りで突き詰めていくと、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』における少年兵のようなタイプの悲惨さが前面に出ることになってしまうからです。

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  • アニメが描く「青春」の現在――『心が叫びたがってるんだ。』と『君の名は。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(6))【毎月第3木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.715 ☆

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    アニメが描く「青春」の現在――『心が叫びたがってるんだ。』と『君の名は。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』 10年代、深夜アニメ表現の広がり(6))【毎月第3木曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.10.20 vol.715
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、ノイタミナ枠をはじめとした「深夜アニメ的想像力」の試行錯誤が、どのようにして『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』といった2010年代の劇場版アニメに結実していったのかを辿ります。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:複数の世代感覚を媒介することに成功した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(5))

    ■深夜アニメ的想像力の転換期を象徴づける『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』『聲の形』
     現在、深夜アニメのマーケットが曲がり角に来ているとよく言われます。セルソフトすなわち「円盤」の売上に頼ってきた産業構造が限界を迎えているからです。このあたりはある程度、音楽産業と似た展開を辿っていて、アイドルアニメが興隆しているのも、ライブイベントとの連動が重要になっていることを物語っています。また、少し前はセルソフトの限定版にフィギュアなどのグッズが付くことが多く、今でもそうしたパッケージは多いですが、それ以上に「Blu-rayにイベント参加券がついてくる」という収益モデルが一般化しています。動画配信市場が本格的に広がってきたことも見逃せないところです。
     収益モデルが多様化している中、深夜アニメがある種の飽和を迎えているという印象も否めません。その一方で、長きにわたるスタジオジブリの活躍を経て、日本の映画産業におけるアニメ映画の存在感が非常に大きくなっていることも周知のことと思います。今世紀でいうならば、細田守が切り開き、新海誠の『君の名は。』が記録的ヒットを上げることで明らかになった、一般向けアニメ映画枠ですね。
     ただ、深夜アニメ発の想像力は、どうしても一般向けとはズレたところで展開されることが多いのも事実でしょう。アニメを多数見ている人は『魔法少女まどか☆マギカ』や『ラブライブ!』、あるいは『ガールズ&パンツァー』などの劇場版のヒットにそう違和感を覚えないでしょうし、何度も語ってきたようにライトオタクが増加していることも間違いありません。それでもやはり、「いかにもアニメ」という記号性に抵抗を覚える人も少なからずいるわけです。ノイタミナのチャレンジは、そうした状況を架橋することにありました。去年〜今年にかけて『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』『聲の形』といった映画作品が注目されていることも、まさにそうした流れに位置付けることができると考えています。
     『君の名は。』のヒットについては、「ユリイカ」2016年9月号(特集=新海誠)に所収の「新海誠の結節点/転回点としての『君の名は。』」や、「サイゾー」での宇野さんとの対談(2016年11月号に掲載)でも語っていますのでそちらを参照してほしいのですが、改めて注目したいことがあります。公式が「ポスト細田守」という名称を使っており、論者によっては「ポスト宮﨑駿」とすら語る人もいますが、そちらの方向ではなく、すでに前回語っているように、新海誠が『とらドラ!』以降の超平和バスターズ組(岡田麿里・長井龍雪・田中将賀)の作風を研究した結果、キャラクターデザインに田中将賀を採用したり、いかにも深夜アニメ的なオープニングムービーが持ち込まれたりしたのではないかということです。
    ■『true tears』のアップデートを試みた『ここさけ』
     では改めて、深夜アニメの想像力に発しながら、『あの花』に続き一般層にも訴求した超平和バスターズ組によるアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)について考えてみたいと思います。ネタバレ込みで語っていきますが、見た人はおわかりのように、『ここさけ』はテーマ的には事実上『true tears』の変奏になっています。ただ、多くの要素が付け加わっているので、単なるアレンジにはとどまっていません。

    ▲『心が叫びたがってるんだ。』水瀬いのり (出演), 内山昂輝 (出演), 長井龍雪 (監督) (画像出典)
     例えば、『桐島、部活やめるってよ』が巧みに描いたスクールカースト描写を取り入れているところが挙げられます。ただし見立てそのものはシンプルで、野球部=アメリカの青春ドラマにおけるアメフト部員というアナロジーを押し通しています。野球部員とチアリーダーのカップルがスクールカーストの頂点とされるという構図ですね。ドラマとしては野球部の田崎くんというキャラクターが鍵で、怪我によってスクールカーストの頂点から転落してしまいます。一般に(深夜)アニメの視聴者には、体育会系が普通にスクールカースト勝者として描写されると嫌悪感を感じる人がそれなりにいるわけですが、田崎くんの「転落」は、そうした抵抗感を一定程度和らげる結果につながっています。最後の展開には評価が分かれるかもしれませんが、アニメファンに人気の細谷佳正が田崎くんを演じているのも絶妙です。

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    複数の世代感覚を媒介することに成功した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(5))【毎月第4木曜配信】
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は富山のアニメ制作スタジオP.A.WORKSの諸作品に注目しつつ、2011年を代表するヒット作となった『あの花』へと至る「深夜アニメ的表現」の系譜を考えます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:『月刊少女野崎くん』に現れた深夜アニメ表現の現代的射程(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(4))

    ■P.A.WORKSの諸作品と『SHIROBAKO』の達成
     前回は動画工房について語りましたが、この連載では京アニとシャフトに関しては、独立した項目を設けていました。もうひとつ、独立した項目を設けていませんが、ここ十年の比較的重要なスタジオとして、富山県南砺市城端に本社を置く、P.A.WORKS(ピーエーワークス)が挙げられると思います。
     元請け第一作の『true tears』(2008年)は、今から振り返ると『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)のプロトタイプと言えるアニメで、一応は同名のゲームを原案としていますが、今ではほぼアニメの印象のみが顕著な作品です。P.A.WORKSは富山県に限らず、北陸を舞台にした聖地アニメを多数制作しています。たとえば近作では、黒部ダム近辺を舞台に展開される『クロムクロ』(2016年)というロボットアニメがありますね。あくまでも地元をコンスタントに舞台にし続ける、そういうスタジオです。
     アニメ聖地巡礼的な文脈でいうと、『花咲くいろは』(2011年)が旅館ものとしての重要作で、作中では架空の祭りとして設定されていた「ぼんぼり祭り」が、金沢湯涌温泉でアニメをきっかけに「湯涌ぼんぼり祭り」として実際に誕生し、今でもイベントが行われています(2016年に第6回を開催)。このように、比較的長期的なスパンで地域に根差すような聖地巡礼アニメを作っています。
     P.A.WORKS制作で規模的にヒットしたものは、北陸アニメだけではないですね。具体的にいうと『Angel Beats!』が挙げられます。学園のモデルは金沢大学なので、聖地アニメ性がないわけではないのですが、『Kanon』や『Air』で知られるノベルゲームブランドKeyの麻枝准が原作シナリオを担当しており、特に終盤においてある種のバッドテイスト性を伴いつつも大ヒットしました。2015年の『Charlotte』も麻枝准シナリオのアニメで、こちらの主要な舞台は東京都国立市です。麻枝准原作のこの二作については色々と興味深いのですが、考察は別の機会にできればと考えています。
     むしろここで考えてみたいP.A.WORKS作品は、『ガールズ&パンツァー』(以下『ガルパン』)の水島努監督が手掛けた『SHIROBAKO』(2014-15年)という「アニメ制作もの」のアニメです。こちらは、武蔵野アニメーションという架空の制作会社を舞台にしており、JR中央線の武蔵境駅近辺がモデルになっています。この舞台設定は、中央線沿線に数多くのアニメスタジオが存在している状況を反映したものといえるでしょう。
     『SHIROBAKO』の概要について簡単にいうと、アニメの制作、声優、アニメーター、それとCGグラフィッカーといった仕事に同じ高校出身の女性たちが就いているという設定で、「高校の同級生がみんな業界で活躍する」というファンタジー要素を軸に、しかし仕事の現場についてはリアル寄りに描いたアニメです。実際の苛酷さを知っている人からみるとアニメ業界を美化していると言われることも多いです(ショートアニメ『ハッカドール THE あにめ〜しょん』の第7話「KUROBAKO」が、タイトルの時点ですでにアニメ業界の「ブラック企業」的暗部をパロディにしています)が、それでも割とシビアな側面や新旧世代の対立などを丁寧に拾っているアニメです。

    ▲『SHIROBAKO』(出典:公式サイトより)
     『SHIROBAKO』で個人的に興味深いと思ったのは後半のモチーフです。武蔵野アニメーションは前半と後半では異なるアニメを制作しているんですが、前半がアクションアニメ(『えくそだすっ!』というタイトルでアメリカンニューシネマ風のシナリオが展開されます)なのに対して、後半は萌えミリタリーものを題材にしているからです。『第三飛行少女隊』という架空の萌えミリタリーアニメは、空軍という題材的に明らかに『ストライクウィッチーズ』(2008年)(略称『ストパン』の由来はある意味ひどいのですが)がモデルだと思われますが、もちろん実際には水島努監督自身が『ガルパン』で得た経験を元にしているわけです。

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  • 『月刊少女野崎くん』に現れた深夜アニメ表現の現代的射程(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(4))【毎月第4木曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.675 ☆

    2016-08-25 07:00  
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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。2010年代に入って「難民アニメ」を数多く手掛け、男性視聴者を中心に支持を拡大したスタジオ「動画工房」。今回は、動画工房アニメのなかでも例外的に男女双方からの支持を獲得し、最大のヒット作となった『月刊少女野崎くん』の現代性を考察します。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:「難民アニメ」から見えてくるコミュニケーション型消費の現在(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(3))

    ■ポスト京アニ的な身ぶり表現を展開するスタジオ「動画工房」
     ゼロ年代以降の深夜アニメにおいて制作スタジオの「シャフト」「京アニ」が象徴的存在となったことは広く知られており、この『現代アニメ史講義』でも独立して扱いましたが、2010年代に入り存在感を見せているスタジオに動画工房があります。動画工房は前回扱った「難民アニメ」すなわち「きらら系」原作ものを得意としており、近作では『三者三葉』や『NEW GAME!』がそのカテゴリーに当てはまります。実際には様々なタイプのアニメの元請をしていますが、現在アニメファンが「動画工房的」と聞いて思い浮かべる作風は、『ゆるゆり』(2011年)以降のものになり、監督としては太田雅彦や藤原佳幸を挙げることができます。
     動画工房の作風について、明確な特徴を挙げることは難しいのですが、京アニが得意としているキャラクターの身ぶり・しぐさの作画を、「きらら系」のデフォルメされたデザインに乗せつつ洗練させている、と言えば良いかもしれません。『未確認で進行形』(2014年)や『NEW GAME!』(2016年)のOP動画を見るとある程度明らかだと思います。京アニの『けいおん!』(2009年)は原作絵のデザインを変えることで、やや寸胴にすら見えかねない体型のキャラたちのしぐさを半ばリアル寄りに描いていましたが、動画工房の場合は、特にきらら系原作アニメでは、キャラクターデザインを原作絵に近付けつつ、ポスト京アニ的な身ぶり表現を手堅く展開しています。
     このような作風のアニメは、現在ではもっぱら男性向けとみなされる傾向があります。だいたい二昔前ぐらいまでは、男性キャラ中心の作品=男性向け、女性キャラ中心の作品=女性向けという了解がありましたが、今では完全に逆になっています。例えば、『黒子のバスケ』や『ハイキュー!!』のようなスポーツマンガや『おそ松さん』のキーヴィジュアルを目にすると、現在のアニメファンは「これは腐女子などに受けそうだ」と考えずにはおれないはずです。ですがもちろん赤塚不二夫の『おそ松くん』は、もともとは1960年代の週刊少年サンデーに掲載された少年マンガで、当時は男性が主要なターゲットでした。また逆に、きらら系難民アニメに典型的な女性中心のヴィジュアルイメージを見た時、現在のアニメファンの多くは、まず男性向けアニメと考えると思われます。
     『ゆるゆり』が「ゆるい百合」から取られているように、深夜枠で多く見られる女性キャラ中心のアニメでは、純然たる友情よりは若干恋愛感情寄りでありつつも、現実のレズビアンと比べるとかなりデフォルメされた関係性がしばしばみられます。この事情はBL作品と現実のゲイ男性とのズレとも似ていて、一般に、現実のセクシャルマイノリティと、オタク文化に現れるセクシャルマイノリティの表象にはしばしばズレが見られます。BLにしろ百合にしろ、ときに性差別的な表現も現れるので、考察には一定の慎重さが求められますが、それでもここで少し考えてみたいのは、なぜ現在の男性向けアニメに女性キャラ中心のものが多いのかという問題を、性的な表現の観点から検討していくことです。
    ■深夜アニメに典型的な性的モチーフの変容
     深夜アニメでは、今でも「水着回」「温泉回」(いずれも観光リゾートの基本であることは注目されます)が定番となっていますが、少し前のアニメではよく見られた、男性が女性の着替えや裸を直接覗きに行くようなセクハラエピソードは、現在では激減しています。代わってしばしばみられるようになったのが、男性が男性、女性が女性の裸体に関心をもつという仕方での、形を変えた「セクハラ」モチーフです。ここには同性愛差別的な要素が皆無とはいえず、また性的な表現の妥当性の感覚はいつの時代でも決して安定しているとは言いがたいので、はっきりした根拠で断定できる事柄は残念ながら多くありません。けれども、例えば1960-80年代ぐらいまでのアニソンに顕著に見られた「男らしさ」「女らしさ」を強調するタイプの歌詞が現在激減しているように、性規範的な役割についての規定が流動的になる傾向は明らかでしょう。
     しばしばオタク文化は性差別的と非難されますが、私は一定の留保が必要だと考えています。それは今述べたように、過去と現在のアニメ表現を比較すると、時代ごとの諸々の規範の変化に伴い、性的な表現に関する許容可能性の感覚も変化していること、そして、深夜アニメでは性的な表現が一つの売りとなっていることが無視できないと思うからです。『ドラゴンボール』の亀仙人のような振る舞いは、今ではゴールデンタイムで許容されることはほぼなく、深夜アニメでも即座に撃退されるネタキャラであることが通例でしょう(ジャンプ系で言うなら『To LOVEる』の校長が典型です)。

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  • 「難民アニメ」から見えてくるコミュニケーション型消費の現在(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(3))【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.647 ☆

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    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は2010年代における男性視聴者向けアニメの動向がテーマ。しばしば「なろう系」と呼ばれる作品群やその他ラノベ原作アニメの現況、そしてゼロ年代日常系アニメがさらに先鋭化した「難民アニメ」の特質について考えます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
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    前回:「動画の時代」がもたらしたアニメ消費の構造転換(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(2))

    ■男性アニメオタクコミュニティの現在
     ここ10年のアニメファンが全般的に「ライトオタク化」しているという話はよく言われることですが、要するに、かつて男性アニメオタクの好物とされた「メカと美少女」が以前と比べてさほど重視されなくなっているのだと私は考えています。この問題については「今世紀のロボットアニメ」を扱うパートで改めて考察する予定ですが、「ヤマト・ガンダム・エヴァ」の三題噺の延長で近年のアニメを語ることの困難、とまとめることができるかもしれません。かつては「メカと美少女」から男性オタクのセクシュアリティについて論じる言説が多く、斉藤環さんの『戦闘美少女の精神分析』(2000年)のような精神分析的オタク論も、そういうフレームのもとでの言説と言えるでしょう。しかし現在では、こうした側面だけではアニメを捉えることが困難になっています。それはもちろん、かつてはアニメソフトをあまり購入しないと言われていた女性アニメファンの影響力の増大などもあるのですが、そもそも男性オタクが無条件的にメカ好きであるとは言えなくなっていることが大きいと思われます。「美少女」要素はもちろん重要であり続けていますが。
     ただし、今でも「メカと美少女」によって駆動されているヒットアニメは数多く、『マクロスΔ』(2016年)も普通にヒットしているように、ガンダムとマクロスという二大ブランドはコンスタントに製作され続けています。加えて、2010年代の深夜アニメにおけるヒット作の一つである『ガールズ&パンツァー』(2012年,劇場版2015年)は、戦車というメカと、美少女の組み合わせという点では、わりと伝統的な男性オタクの嗜好性に沿ったコンテンツということができます。女性ファンもいないわけではないのですが、特に2015年の劇場版では、従来からのファン層である『ストライクウィッチーズ』(2008年-)などに代表される「萌えミリタリー」コミュニティに加えて、広義の映画秘宝系マニアというか、B級アクション映画のファンをも惹きつけてヒットしました。ネットで流布した「ガルパンはいいぞ」という思考停止に見えかねない賞賛コメントは、そういう流れを集約したものと言えます。
     もう一つ「メカと美少女」美学に忠実でありつつコンスタントに続いているシリーズを挙げるなら『戦姫絶唱シンフォギア』(2012-)になると思います。『シンフォギア』シリーズは、SF西部劇ゲーム『ワイルドアームズ』のスタッフによるもので、90年代風の熱血要素が色濃く現れており、ファン以外に広く知られているとは言えません。いわゆる「閉じコン」の様相を呈してさえいるのですが、独特な作風も相まって根強い支持を集め、4期5期と続いていくことが明らかになっています。装甲をまとった戦闘美少女が歌いながら戦うミュージカル要素が独特で、悠木碧や水樹奈々といった声優が息が切れたり、ときに声が安定しないまま歌うバトル場面が魅力でしょう。シリーズが続いている一因としては、歌の要素を活かしたイベントが盛り上がるタイプの作品であることが大きいと思います。
     このように、『ガルパン』や『シンフォギア』は割と伝統的な形式に忠実な部分もあり、事実昔からのアニメファンの支持も多い作品です。具体的に言うなら1972年生まれの私よりも年長のアニメファンですね。けれども『宇宙戦艦ヤマト2199』(2012-2014年)のように年長者専用ということは決してなく(ファンの方すみません)、現在のオタク消費の形態に適応しているからこそ、広い支持を集めているわけです。ここはぜひとも強調したいところで、『シンフォギア』の場合は声優イベントとの結びつきが鍵となっており、そして『ガルパン』は、2010年代アニメの中で、聖地巡礼モデルが最も成功した作品のひとつとなっています。私はこの10年くらいのアニメの動きでは、男性のみがアニメの消費をリードする時代ではなくなったという認識を持っていますが、もちろん男性ファンが中心のこれらアニメも重要な存在感を示し続けています。特に『ガルパン』は、ちょうどポスト3.11期の震災復興とも結びつく形で、茨城県大洗市への聖地巡礼を促すイベントもコンスタントに行われていて、コンテンツツーリズムの現状を考える上でのモデルケースとなっているわけです。

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  • 「動画の時代」がもたらしたアニメ消費の構造転換(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(2))【毎月第3水曜配信】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.618 ☆

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    「動画の時代」がもたらしたアニメ消費の構造転換(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(2))【毎月第3水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.6.15 vol.618
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、アニメ制作のデジタル化や、YouTubeやニコニコ動画など動画サイトの登場によって起こったアニメ消費構造の変化について論じます。
    ▼プロフィール
    石岡良治(いしおか・よしはる)
    1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
    『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。

    前回:「ノイタミナ的なもの」の発生源(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(1))

    ■オタクのライト化と「動画の時代」の到来
     以上おおまかに語ってきた深夜アニメの流れは、90年代からゼロ年代前半ぐらいまでのアニメについて、現在の視点から遡って見たものになります。なので、リアルタイムの記憶を持つ人からは異論も出るでしょうし、どうしても厳密に語りにくいところが残るので、ある程度の便宜的な指標と考えてください。とりあえず80年代と90年代に大きな力を持ったOVAと、90年代以降に広まった深夜バラエティ番組という、二つの傾向について触れたわけですが、ゼロ年代後半から現在に至るまでの深夜アニメでは、両方が合流した市場を形成しています。
     もう一点、年ごとに見ていくと緩やかな変化に思えますが、今の視点から過去のアニメをざっくりと振り返ると、ゼロ年代の前半と後半ではスタイルが大きく変化していることに気付きます。これはもちろん、アニメ制作のデジタル化による色彩の多様化と、背景の精密化が表現として定着したことが大きな理由となっています。
     それと関連して、YouTubeやニコニコ動画の普及によって顕著になった、オタクのライト化を伴う消費環境の大きな変化も挙げられるでしょう。ゼロ年代前半は、まだまだポストエヴァ&攻殻機動隊を狙った、ロボットアニメやいわゆる「ジャパニメーション」風のアニメが多かったことも、その頃のスタイルの特徴と言えると思います。詳しくは次回「今世紀のロボットアニメ」として扱う予定ですが、オタクのライト化に伴い、ガジェットとしてのロボットの求心力が大きく低下していることは間違いないと思います。一例としては、ゼロ年代のオリジナルロボットアニメとしてのヒット作『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006-2008)が、ロボットすなわち「ナイトメアフレーム」に興味が薄くても楽しめる作りだったことが挙げられるでしょう。

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