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» 2017年07月28日 07時00分 UPDATE

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:フリーゲージトレインと長崎新幹線の「論点」 (3/5)

[杉山淳一,ITmedia]

フリーゲージトレインは悪くない

 デメリットばかり並べてしまったけれど、フリーゲージトレイン自体は素晴らしい技術だ。スペインではタルゴ社が1968年から実用化し、フランスに直通する国際列車などで運用している。国境の駅に車軸を変換する装置があり、そこを通過するだけで変換完了。台車1つあたりの変換所要時間は5秒で、列車が低速で通過すれば全ての作業か完了する。

 日本では93年からフリーゲージトレインの開発が始まった。その背景には92年に開業した山形新幹線があったと思われる。山形新幹線は、東北新幹線から列車を直通するために、在来線の線路を新幹線規格の線路に大改造(改軌)した。この間、工事区間ごとに列車は運休し、バス代行運転となった。

 線路の改造は工事費がかさみ、長期間の運休も発生する。フリーゲージトレインなら、改軌しないで新幹線を在来線へ直通できる。応用範囲も広い。東北だけではなく、山陰へ、四国へ、九州へ新幹線列車を直通できる。低コストで全国新幹線ネットワークを実現できそうだ。ただし、完成していれば、と注釈がつく。

 タルゴが約半世紀も使っている軸間可変車両が、なぜ日本ではてこずっているか。その理由は台車の構造にある。タルゴは機関車と客車を組み合わせる。客車の台車構造は左右の車輪が独立しており、車軸でつながっていない。そのため軸間可変装置を搭載しやすい。日本の新幹線は電車だ。台車にはモーターを組み込んでいるから構造が複雑で、台車が重くなる。

 タルゴの機関車も台車にはモーターがついているため、軸間可変システムを搭載しにくいし、重い。ただし、車体に乗客を乗せないから、車輪や台車そのものを大きくして対応できる。タルゴには編成全体のデザインが統一されて電車のように見える列車もあるけれど、実は両側の先頭車は機関車になっていて、乗客は乗せない。

photo タルゴ社の「Talgo 350」は編成の両端の先頭車が機関車(動力車)になっている(出典:Flickr Mikel Ortega

 つまり、もともとフリーゲージトレインは電車には不向きなシステムだ。ただし海外では電車型フリーゲージトレインもある。台車の外にモーターを置き、ドライブシャフトと自在継手で車輪を回すタイプだ。ディーゼルカーのエンジンをモーターに置き換えたシステムである。

 これは台車の負担を減らすには良いアイデアだけど、高速走行には不向きで、ドライブシャフトと自在継手のメンテナンスコストもかさむ。JR北海道はディーゼルカーのドライブシャフトと自在継手を嫌って電気式気動車を採用したほどだ。

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