公式戦29連勝の新記録を樹立した将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段(14)が6日、大阪市の関西将棋会館で指された順位戦C級2組で中田功七段(49)を破った。2日に初黒星を喫し、連勝が「29」でストップして以来、初めての対局を逆転勝利し、公式戦通算30勝目を挙げた。次戦は11日、加古川青流戦でベスト8をかけ、都成竜馬四段(27)と対局する。天才中学生の新たな戦いが始まった。

 藤井はいつも以上に落ち着いていた。中田が得意の「振り飛車」戦法を採用したのに対し、玉を深く堅く囲う「穴熊」で対抗した。中盤戦、ベテラン・中田の猛攻が始まる。熟練の勝負術にジリジリと追い込まれても、気負いはない。「う~ん…」。攻めを正確に受け続けられた中田がうなった。苦戦から一転、藤井が形勢を逆転させ白星をもぎとった。

 連勝が途切れた後の再スタートを白星発進。「自分としては連勝に関係なく、普段通りに臨もうと思った。敗戦の悔しさ? ずっと引きずっていてもいけないので」と話した。

 2日の竜王戦決勝トーナメント2回戦で佐々木勇気五段に敗れ、公式戦の最多連勝記録が「29」で止まった。プロ初黒星の悔しさをこらえて、終局後、東京に単身赴任中の父正史さん(48)宅へ向かうタクシーの中、棋譜を見ながら敗因を探った。敗戦から学ぶことの大切さを知っている14歳は、この日の対局までに気持ちを切り替えていた。

 この日午前9時ごろ、関西将棋会館に到着すると、控室で詰め将棋を解きながら対局に備えた。5歳の冬から通った「ふみもと子供将棋教室」(愛知県瀬戸市)では詰め将棋を解き、“筋トレ”のように励んできた。

 師匠の杉本昌隆七段(48)は言う。「小学校時代、対局が終わると、仲間と詰め将棋の問題を出し合っていた。すごく楽しそうだった。本当に将棋が好きなんだなと」。勝負に挑む前の詰め将棋はリラックスさせてくれるだけではなく、将棋が大好きな少年時代を思い出させてくれる。原点に戻り、再スタートを切った日となった。

 次戦は加古川青流戦のベスト8を目指し、都成四段と対局する。「次の対局も今まで通り全力で臨みたい」。天才棋士の言葉に気負いはない。【松浦隆司】

 ◆順位戦 将棋界は名人を頂点に、A級(11人)以下、B級1組(11人、昇級2人)、B級2組(25人、昇級2人)、C級1組(37人、昇級2人)、C級2組(50人、昇級3人)とピラミッド式に格付けされている。1年1期として、各組でリーグ戦を行う。A級の成績最上位者は、名人への挑戦権を得る。B1以下は、1クラス昇級となる。2階級特進はない。逆に、成績が悪いと降級する。新人は、C2でデビュー。大相撲の幕下付け出しデビューのような特例は、ない。名人になるには、最短で5年かかる。