独特のテンションとシュールな小ネタ、中毒性のある作風で人気の映像作家AC部。ビーマガでも「未来のライターjii jii jii」について以前の記事でとりあげました。どのようにAC部が生まれ、どのようにあの映像たちが世に送り出されるのか、AC部の安達さんと板倉さんにお話を伺いました。

AC部とは

代表作

1999年、多摩美術大学在学中に結成されたAC部。ハイテンションで一度目にすると病み付きになるアニメーションが持ち味のクリエイター集団で、ビーマガでも「未来のライターjii jii jii」について以前の記事でとりあげました。AC部とはいったい何者なのか? どのようなクリエイティブを行なっているのか? その秘密に迫ります。

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代表作:
ユーロボーイズ(NHKデジタルスタジアム デジスタアウォード2000 グランプリ)ショートアニメ
テレビ朝日SmaSTATION「スマアニメ/カッコいい男たち扁」ショートアニメ
NHK みんなのうた「哲学するマントヒヒ」ショートアニメ
ザマギ/マジカルDEATH(Music Video Awards ‘05ノミネート)PV
 NHK 天才ビットくん「アホちゃいまんねんビットやねん」番組コーナーアニメ
伊武雅刀公式HP web site
フジテレビ SMAP×SMAP 番組ブリッジ映像
NHK 星新一ショートショート「プレゼント」ショートアニメ
NHK教育「○○の国の王子様」番組アニメパート
東京オンリーピック「和卓球」ショートムービー
ロッテ ブラックブラックガム「ポップアート編」CM
調味マスターリョウ / 紙芝居
group_inou / ORIENTATION PV
海女ゾネス ショートアニメ

<group_inou / HEART(Music Video Awards ‘11ノミネート)PV>

映像制作のきっかけと「AC部らしさ」の誕生

メンバーの出会い、そしてAC部結成のきっかけを教えてください

板倉 AC部の僕、安達は、大学のクラスが同じだったんです。じつは、僕らのいた多摩美術大学のグラフィックデザイン学科のクラス分けが、名字のあいうえお順だったんですよ。あるクラスによってはあ行とか行ばっかりいるとか(笑)。そこで同じクラスで席も近かったのが、安達と私なんです。ちなみに、安藤というメンバーも同じクラスにいたのですが、初期のAC部はこの3人で設立しました。

 AC部発足のきっかけは、とあるゲームをやりこむ部活をつくろうとその3人で集まったこと。あえて固有名詞はだしませんが、「AC部」という名前は、某ゲームの頭文字からとっています(笑) 

 最初につくった制作物は、学食に貼った部員募集のポスターでした。ゲームオタク集団に思われてはいけないと詳しい説明はせず、ただ「AC部」の表記のみ。猫の絵やバレーボール選手の絵など、ゲームとは関係ないものばかり描いていましたね。それが今のAC部の作風につながる、最初の作品だったと思います。

 どうしてゲームなのに猫やバレーボール選手か? そのポスターでピンとくる人だけが入ってきてくれれば……と考えてのことだったんです。部員はぜんぜん増えませんでしたが(笑)。

はじめから今の制作スタイルと同じだったのですか?

安達 大学3年生から広告映像の授業があり、課題制作のために映像ソフトを使って個人作品をつくるようになりました。個人作品ではあるのですが、それぞれ、お互いアイデアをだしながら作っていましたね。3人の考えが交じり合う感じというか……。

板倉 AC部らしさというか、方向性は当時すでに決まっていたような気がします。食堂のポスターづくりのときから、「こういうものがつくりたい」というよりも、「一番へぼく見える」や「衝撃がいちばん強いもの」を基準に考えていました。不思議と3人ともその目的意識は合致していたので、それが「AC部らしさ」のルーツかもしれません。もちろん、今でもそれが根底にありますね。

なるほど。大学でのそうした活動を経て、そのままクリエイティブの世界に入られたのしょうか。

安達 大学卒業後はグラフィックデザインの会社に就職し、その後テレビのCGをつくる会社で働きました。

板倉 私はゲームソフトの会社に就職しましたが、すぐに辞めてしまって。ちょうどAC部としての仕事をいただいたので、そのままフリーになりました。広告代理店でDTPオペレーターの仕事もバイトとして続けつつ、ですが。

安達 お互い別の仕事を経たわけですが、すべてものづくりやクリエイティブの仕事だったので、ギャップはあまりなかったですね。そしてAC部としての仕事が徐々に増えて、今にいたります。

最近の仕事では、ViibarでYahoo!の社員総会の仕事手がけられました。いかがでしたか?

Viibar - ヤフー株式会社様 社員総会エンディング動画 from Viibar on Vimeo.

(注)似顔絵部分は伏せさせていただいております

安達 この案件に関しては、コンペではなく直接ご依頼いただいていたんです。つまり、AC部らしいテイストを理解したうえで、僕たちのクリエイティブを求めていただいたわけなので、楽しく制作することができました。

 そのなかで考えなければならなかったのは、社員総会というインナーのコンテンツをどうおもしろくするかということ。また、クライアントはメディアなので、世に発しているトーンやマナーにも配慮しました。

板倉 個人情報の関係で一般には公開されていないのですが、映像の中で、社員の方の似顔絵を100人分つくったんですよ。社員総会は1日だけのイベントだったのですが、そのあと社員の方の似顔絵はいろいろと活用されているようです。

話題のCM「カレーメシ」のアニメーション部分もAC部さんの作品だそうですが、どのような進行・役割分担だったのでしょうか?

*カレーメシ

板倉 えーっと、たしか、演出コンテだけを見た状態でスタートしたんですよね。

安達 そう。でも、演出家は何度か仕事をしたことがある佐藤渉さんだったので、やりとりはスムーズでした。

板倉 この「カレーメシ」にかかわらず、「最初のアイデアは2人でとにかく出し合う」というやり方をとっています。

安達 話し合ってアイデアを出すというよりは、1人でうんうん唸って出して吟味して、それを持ち寄る感じですね。推敲して、アイデアを客観的に見ながら「あ、これは“邪念”が入ってる」とか(笑)。

AC部の「おもしろさ」の源泉、そしてその苦悩について教えてください。

板倉 「おもしろいとは何か」「どうしたらもっとおもしろくなるか」は常に考えています。僕たちにそういう期待を持っていただいていることもわかっていますから。そのなかで、AC部の感性としての「おもしろさ」と、その映像のターゲットの受け手にとっての「おもしろさ」は違うものかもしれない、という引きの視点は忘れないようにしていますね。ターゲットに女性が多かったら激しすぎるものは控える、とか。

 ただ、そういう前提とか条件にガチガチに縛られながらアイデア出しをしても、おもしろいものを思いつかなくなっちゃうんですよね。条件を与えられてクリアしようとすると、それなりにしっくりくるけどおもしろくない……。だから、いつも2人で「おもしろいか、おもしろくないか」を徹底的に話し合って詰めていくんです。けれど、2人が納得しても、クライアントの意図とマッチしないときもときにはある。

 安達 そうなると、「出口を探す作業」ですね。脱出ゲームです。この脱出ゲームでまず大切なのは、「閉じ込められている状態」だと認識することなんです。そして、その状態を打破すること。その2段階を踏まえなければ、おもしろい映像をつくれません。

 では、打破するためにはどうするか。自分で自分のアイデアをとことん詰めるしかないんです。「おもしろい」には公式がないですから。

板倉 大筋の「おもしろさ」が決まったあとも、映像のなかに小ネタを散りばめていきます。時間やいろいろなものに追いつめられながら(笑)。けれど、追いつめられながら即興で出てくるものがいい小ネタなんですよ。

安達 なので、一部分だけ変更というのはなかなか厳しいですよね。それが変わると全部変わっちゃうよ、というものはある。あ、そういえば、ある仕事で初めに「こういうテイストで」とオーダーがあり、その方向で作画を進めていたところ、途中で急に「違うテイストに変えてほしい」という要請が来たことがあったんです。 

板倉 その新しいテイストは、AC部らしさとは少し違うものだったんですよね。最初の最初で前提条件をクライアントやスタッフ全員と共有していないと、中途半端なものができてしまう恐れがあります。

安達 前提条件や感覚は、映像制作の方向性そのものです。たとえば、「子ども向け」だから必ずしも子どもを出す必要はないし、「女性向け」だから女性を出す必要はない、というような感覚を共有できていないと、アイデアが煮詰まったあとで「なんで子どもが登場していないんだ!」となる(笑)。クライアントからつくる側まで、条件や感覚の共有を徹底することが本当に大切だと思います。あとは信頼関係ですよね。

クレイジーすぎるCMとして200万回以上再生された「未来のライターJii jii jii」。あれは「AC部らしさ」全開ですよね。

安達 Jiiの仕事に関しては、条件や感覚がクライアント、スタッフみんなにきちんと共有されていたのでとてもやりやすかったです。

板倉 そうですね。他にも、group_inouのミュージックビデオなんかも完全なる信頼のもとにやっています。

安達 作家性を信頼してもらって納品までノーチェック、というものもあります。つくる側のプレッシャーはものすごくありますが、嬉しいですね。

 

*後編は11月21日公開です!

クリエイターインタビューはこちらもどうぞ!

●フォトグラファー・カツヲ

「大きい仕事がしたければ、ステップアップしていくしかないですよね。今の自分の知識や経験の狭い範囲で回っていく仕事で満足するのであれば、チャレンジする必要はない。」

クリエイターインタビューVol.1カツヲ氏(フォトグラファー)①

「仕事には、3つの種類があります。1つめはお金になる仕事。2つめはブランディングになる仕事。そして3つめは、欲求を満たす仕事です。」

クリエイターインタビューVol.1カツヲ氏(フォトグラファー)②

●mov.

「企業が動画を作るとき、課題を解決したい、イメージを変えたい、商品を売りたい、などの“想い”を持っています。アーティストというよりは、動画コンサルタントであり、動画という媒体をつかった通訳者。」

クリエイターインタビューVol.2<mov.>前編

「自分たちのつくったものを信じている。だけど、最後まで疑う。そういう感じを大切にしたいですよね。」

クリエイターインタビューVol.2<mov.>後編

●志岐誠

「「あれ、出演するより、作る方が面白いんじゃないか?」ということに気づいたんです。「将来はテレビ局のディレクターになるんだ!」と思ったのは、とても自然なことだったように思います。」

クリエイターインタビューvol.3 佐世保映像社 志岐誠<前編>

「今だって1000本ノックの世界ですよ。でも、やり続けるしかない。だって完パケ主義ですから。」

クリエイターインタビューvol.3 ディレクター志岐誠<後編>

●水尻自子

「私は、モノを触ったときの感触の連鎖をうみだせるのではないか、という目論みでアニメーションをつくっています。感触と言っても特別なものではなく、誰しもがどこかで一度は感じたことがあるような、普通の感触です。」

クリエイターインタビューVol.4<水尻自子>前編

どう構築していくか」は、私にとってアニメーションの動きと同じくらい大切な部分なんです。 

クリエイターインタビューVol.4<水尻自子>後編

●安部豪

実力や営業努力次第で、地方でも映像制作の仕事はできる、ということです。今の時代、「地方だからいい仕事ができない」というのは言い訳にならないでしょう。

クリエイターインタビューVol.5 フォトグラファー安部豪<前編>

クリエイティブな仕事が都市部に集中するのは当然のことです。しかし、だからと言って地方の人間が仕事を求めてからだごと都市部に移動するのは、もはや古いのかもしれません。」

クリエイターインタビューVol.5 フォトグラファー安部豪<後編>

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