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映画クロスレビュー

『ゲット・アウト』 監督の実体験もとに アメリカでヒット

[第133回]

『ゲット・アウト』より © 2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

藤えりか記者によるジョーダン・ピール監督への電話インタビューをGLOBE「シネマニア・リポート[#64]」に掲載

『ゲット・アウト』の撮影に臨むジョーダン・ピール監督












みどころ

黒人写真家クリス(ダニエル・カルーヤ)はある週末、白人の恋人ローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家へ招かれる。「オバマ支持者だ」と強調する父らは過剰なまでに歓待し、黒人を持ち上げるが、使用人は黒人ばかりで、違和感を覚える。そこへローズの亡き祖父を悼む会が開かれ、裕福な白人が大勢集まる。クリスは若い黒人を見つけて近寄るが、思わぬ騒ぎになる。黒人監督が経験を元に脚本も書き、米国で大ヒット。(2017年、米国、ジョーダン・ピール監督、全国順次公開中)




『ゲット・アウト』より © 2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved



Review01 川口敦子 評価:★★▲(満点は★4つ、▲は半分)


リベラルの偽善 痛烈に


アメリカのお笑いコンビ“キー&ピール”のジョーダン・ピールは、黒人の父、白人の母をもつ自身の居場所、二つの文化のはざまにある眼を味方につけ、痛烈な笑いで人種問題を突いてきた。初の監督作『ゲット・アウト』でもアメリカの暗部に切り込んでいる。


開巻まもなく、白人の恋人の実家を訪ねる予定の主人公が「両親に僕が黒人だと伝えた?」と念を押す。そんなやりとりは、黒人と白人の結婚をめぐる家族の混乱を描いた1967年の米映画『招かれざる客』を想起させる。が、差別に抗してまっすぐに主張し得た反体制の時代と映画は、今、振り返るとナイーブとも映る。ピールの映画がみつめる現代の人種問題はより複雑なねじれをはらんで、だから差別への問いかけも屈折したものになる。


保守反動化が進み白人優位主義が跋扈(ばっこ)する21世紀のアメリカで生きる黒人の恐怖をピールはホラー映画として語る。そこではリベラルの皮をかぶって生きる白人の嘘、偽善の怖さも暴かれていく。どこか怪しい白人コミュニティーへの違和感を積み上げるピールの手際は周到だ。ただ異様さがヒトラーまがいの暴挙と結ばれる後半にかけ、こけおどしの効果音とショック演出が鼻につき、せっかくの主題や主張が上滑りしてしまう。


恐怖を笑うコメディーともなり切れず物足りなさが残る。とはいえ“建前の公正さ”をかざす社会の裏面にある根深い問題を娯楽作として多くの観客に届ける志は貴重だと思う。





Kawaguchi Atsuko

1955年生まれ。映画評論家。著書に『映画の森—その魅惑の鬱蒼に分け入って』、訳書に『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』などがある。



(次ページへ続く)

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