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杉本昌隆七段の「棋道愛楽」

 藤井聡太七段の昇級・昇段を祝う会が、6月10日に名古屋で開かれました。五段昇段が2月1日。六段は2月17日。そして「六段昇段後、竜王ランキング戦連続昇級」の規定により、七段に昇段したのは5月18日のこと。驚くべきスピード出世です。

 棋士の段位は会社で言えば肩書。昇段は「昇進」と置き換えると分かりやすいかもしれません。九段が最高段位の将棋界では、七段は高段者の仲間入りです。会社なら、部長などの役職ではないでしょうか。15歳の部長。将棋界にはない役職ですが、想像するとちょっとおかしくなります。

 ただ、昇段がたやすいと思うのは早計です。昇段規定には、名人戦につながる順位戦昇級や棋戦優勝、竜王ランキング戦連続昇級などがあり、藤井七段はこの三つで規定の成績を上げて昇段しました。1年間に二つ昇段する棋士はときどきいますが、三つとなると現行制度ではただ1人。空前絶後の記録なのです。九段まであと二つ。もしかすると、藤井七段には将棋界の段位は少なすぎるのではないか……と余計な心配をしたくなります。

 もっとも「肩書」にこだわるのは大人の感覚。若い藤井七段には、今の段位にさほどこだわりはないでしょう。第11回朝日杯将棋オープン戦(朝日新聞社主催)で棋戦優勝も果たした今、次に欲しいのはタイトルのはずです。

 昇段すると、棋士の何が変わるのか? やはりプロの世界ですから、分かりやすいのは対局料などの金銭面です。棋士の収入は複雑ですが、段位が上がると対局料も上がります。ある対局で四段と八段が対局した場合。八段の方が対局料は高い、これも普通です。

 ホームグラウンドでの対局が増えるのも利点です。棋士は日本将棋連盟の将棋会館がある東京本部か関西本部(大阪市)に所属し、東西の棋士が対戦する場合は、どちらかが遠征する必要があります。七段になると、下位の段位の棋士との対局で、自分の所属場所(藤井七段は大阪)での対局が増えます。話は少しそれますが、愛知にも将棋会館があれば便利でしょうね。

 その昔は、六段、七段になると連盟から支給される交通費に新幹線のグリーン車代が片道プラスされる、という特典がありました。八段以上なら往復グリーン車。時代の流れもあり、今では廃止されてしまいましたが、段位によって差をつけるところはいかにも勝負の世界らしい気がします。

 師匠として、弟子のスピード昇段はうれしいもの。同じ段に並ばれた? いえ、私はあと13勝(七段昇段後、公式戦190勝)で八段ですから、余裕を持っています。さすがに追い越されることはない……はずですが、竜王位獲得で八段の規定もあります。全く油断ならない……いや、頼もしい弟子です。

 藤井七段が私の段位を追い越してくれるのはいつでしょうか。戦々恐々としながらも、その日を楽しみに待っています。

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 すぎもと・まさたか 1968年、名古屋市生まれ。90年に四段に昇段し、2006年に七段。01年、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。藤井聡太七段の師匠でもある。