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『甘い鞭』(R18+)壇蜜 単独インタビュー

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『甘い鞭』(R18+)壇蜜 単独インタビュー

誰の心の中にも、Sの部分とMの部分、その両方がある

取材・文:轟夕起夫 撮影:金井尭子

『死んでもいい』『ヌードの夜』『GONIN』など数々の傑作を生み出し、唯一無二の映像世界で国内外のファンを魅了してきた鬼才・石井隆監督が、あの壇蜜と組んだ! タイトルは『甘い鞭』(R18+)。大石圭のショッキングな問題小説を映画化したエロチック・ホラーで、壇蜜は、昼は不妊治療の専門医、夜はSMクラブのM嬢として働くヒロインを演じている。高校生の頃に1か月間、拉致監禁されたトラウマを抱えて生きているという設定で、この難しい役柄を通して彼女は、本格女優への第一歩を踏み出した。

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二人で一人の女性の人生を違和感なく演じる

壇蜜

Q:本作は、32歳の奈緒子を壇蜜さんが、17歳の過去を間宮夕貴さんが演じていますが、ほとんど二つの世界が並行して描かれていきますね。

そうなんです。なので、奈緒子という一人の女性の人生を間宮さんと2人で演じ、違和感なく仕上げることがわたしたちの「務め」でした。観賞後に皆さんに、「違和感がなかった」と言っていただけたら、それは何よりの称賛の言葉ですね。

Q:間宮さんと具体的に何か話し合ったりしたことは?

あえてしませんでした。衣装合わせだったり、同じ現場で代わり番こに撮影もしていましたので、顔は合わせてはいたんです。でも彼女は、「監禁された奈緒子」の時期を担う立場だったので、ちょっと話し掛けづらかったというか……本来ならば、その監禁シーンの撮影も見ておくべきだったのでしょうけれど、わたしは見ませんでした。

Q:それはなぜですか?

32歳の奈緒子は、忌まわしい記憶をもう心の奥に封印し、「なかったこと」にしているので。石井(隆)監督の目には怠惰に映ったかもしれないですけど、わたしは今でもあえて見なかったことが正解だったと思っています。完成作を観たら、間宮さんと2人でヒロイン・奈緒子の人生に寄り添っていました。そんなすてきな映画にしていただいて、間宮さんにも石井監督にも深く感謝しています。

SとMをカテゴライズしがちな風潮に物申す!?

壇蜜

Q:女医になった奈緒子は、夜はSMクラブのM嬢として生きています。壇蜜さんは実際、SMのオピニオンリーダーでもありますが。

今ってSとMをカテゴライズしがちな風潮があって、それは僭越(せんえつ)ながら、危険だなあと感じています。よくお酒の席なんかで「Sなの?  Mなの?」って血液型のように語られちゃうじゃないですか(笑)。本当は誰の心の中にも、Sの部分とMの部分、両方あるのに。でもついつい人間ってどちらかに選別したくなっちゃうんですよね。

Q:奈緒子は劇中、SMのシチュエーションの中でいろんな顔を見せていきます。

彼女は本能の赴くまま、心地良さを求めて無意識に直感的にSとMをシフトしているんでしょうね。ただ、鞭(むち)でたたくこともたたかれることも、苦痛を与えることも与えられることも次の何かを探すための手段でしかないような気がします。その結果、奈緒子には何も残っていないような、すごく空っぽなもの悲しさも、演じながら感じました。

質感、構造は「まど☆マギ」に似ている!?

壇蜜

Q:この作品は、ある意味、過激な「大人のファンタジー」ともいえますよね。

とりわけラストは虚と実がパラレルなエンディングになっており、観る方によって独自の解釈が可能で、そういった意味ではファンタジーの範疇(はんちゅう)に入ると思います。わたし、「魔法少女まどか☆マギカ」のファンなのですが、この映画の質感、構造って「まど☆マギ」に似ているんですよね。美と醜が同時に存在し、人間の死生観が心に残る。もちろんこれはあくまで、わたしの勝手な解釈ですけど。

Q:なるほど~、「まど☆マギ」ですか! では演技的な面で、撮影中、一番キツかったシークエンスは?

実はあまり記憶がないんです。今、撮影のディテールを思い出せない自分に改めて驚きつつ、この取材に貢献できない悔しさをかみ締めています。それだけ必死だったのでしょう。奈緒子は17歳のときの経験を自分のせいだと罪に感じる反面、相手が全て悪く、だから生きていくべきだとも思う。母親に甘えたいけれど、本当はわたしなんかいない方がいい、あの場で殺されればよかったんだという後ろめたい気持ちも。いつも両極端で揺れているんですよね。そんな激しい心の流れのさまよいは、例えばわたしの好きな宮本輝さんの小説「五千回の生死」ともリンクしました。一言発すると、奈緒子はその言葉の表と裏の意味をずーっと行ったり来たりしているんです。

現場にご奉仕し、十全にお務めを果たすだけ

壇蜜

Q:近年、女優業にも携わるようになられて、今回の映画に限らず「わたしはこんなふうに映るんだ」と、作品に応じて未知の自分と出会ったりするものですか。

わたしは自分を、「女優」と認識したことが一度もないんです。縁があって、作品に呼んでいただき、その場を盛り上げるお手伝いをしているだけのような気がしています。できるのは現場にご奉仕し、十全にお務めを果たすこと、それだけです。

Q:いやあ、それは立派な女優の仕事ですよ。ご多忙な中、以前はコンビニで菓子パンを買い、心の穴を埋めていたそうですが、最近はいかがですか。

もはや小さな穴やヒビを埋めることが難しくなってきていて、今はあえて、埋めないままでいますね。決して無頓着になっているわけではなく、穴が広がり大きくなれば、また違うものになるんじゃないか、という気持ちで育てている最中です。自分が完璧でないことはよくわかってはいたんですが、その事実に打ちのめされつつ、後ろ向きに生きることも、何年か後の、前向きにつながるのかなあ……って。


壇蜜

とある場所で、彼女は好きな映画に、ヤン・シュヴァンクマイエル監督の『悦楽共犯者』(1996)を挙げていた。フェティッシュな自慰機械の製作にとりつかれた男女の秘めやかな行為をシュールに描いた作品だ。「己の欲望のためだけに労を惜しまない姿が人間らしいなって。女性って隠し事や秘密が好きだけど、これだけオープンに自分の好きなもののためだけに汗水垂らせることがうらやましくって」。終始、理知的な壇蜜のコメントにうっとり。そしてその色香に「演技っていうのは、監督へのご奉仕プレイですよね」とつい口走ってしまった自分、もう完敗でした!

(C) 2013『甘い鞭』製作委員会

映画『甘い鞭』は公開中

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