声優 鈴木 正和

電車に揺られて通勤する毎日、なんとなく物足りない。ふと目に留まった雑誌の広告がTAAの物でした。

就職して会社員として働き始めて、たしか2年目でした。

電車に揺られて通勤する毎日、なんとなく物足りない。

ふと目に留まった雑誌の広告がTAAの物でした。

「そういえば中学生のころ、声優にあこがれてたっけ・・・」

正直この頃は、プロになろう!なんて思っていませんでした。

普通に働きながら、空いた時間に好きな事をやって、生活が充実すればそれでいい。

ここなら、仕事を続けながらでも通えるし・・・という程度。

いざ授業を受けてみると、刺激と驚きの連続でした。

真剣かつ熱心な先生方に、年齢も職業も様々なクラスメイト。

次々に立ちはだかる課題と、それを乗り越えて行く喜び。

発声が弱いと言われれば、ヴォイストレーニンングに通い、

体を鍛えろと言われれば、仕事を終えてから荒川までジョギングに筋トレ。

課題を分析し、悩みに悩んで自分なりの解釈を持って授業に臨むも、クラスメイトの予想外の演技に驚愕!

と同時に、自分に見えている場所がまだほんの一部だという事実に大コーフン!!

気付けば、元の生活に戻る事など、考えられなくなっていました。

実際にプロとしてお仕事を頂くようになってからは、主に外国映画の吹き替えをさせて頂きました。

併せてニュースの生ナレーションなど、貴重な経験を積みながらも、時代の流れと共に、アニメーションやゲームのお仕事も頂けるようになっていきました。

現在の事務所に移籍してからは、テレビ・ラジオCMや番組・企業向けナレーションなどが加わり、さらにバラエティ豊かになっています。

プロとして活動を始めてから現在までを振り返っても、業界の状況は刻々と変化してきました。

劇場・アナログ地上波から、ケーブルTVに衛星放送、そしてそれらのデジタル化。

ビデオテープからDVD・BDへ、さらにはネット配信などマルチメディアまで。

幸いにも、変化が起こるたびにお仕事のチャンスは増えていきましたが、未来の事は誰にもわかりません。

日々是精進です。

とても大切にしている恩師の言葉があります。

「この仕事は、最後まで立っていたヤツが勝ちだ」その方はその言葉の通り、最期まで立ち続けていました。

ここで言う「立つ」について、よく考えさせられます。

単純にお仕事をすること、とも取れますし、皆に注目を浴びること、とも取れます。

今の僕はこの「立つ」を、「自分が納得のいく仕事をする」としました。

不正解はあっても、正解のない仕事です。誰もが納得できる、100点満点の仕事なんて出来ません。

でもどんな形であれ、自分が「納得のいく仕事」は可能なはずです。

もちろん「お金を頂いて働く」わけですから、依頼主の望むものを提供する義務はあります。

そのうえで、「自分が」納得できるものを提供したいと考えます。

「観ている人を感動させる」とか「超大作の主役に」だとか、

そういうことは後から付いてくる物ですし、極論すれば、取るに足らないことだと思っています。

声優・ナレーターというのは、素晴らしいお仕事です。

沢山のクリエイターたちの、だれかに伝えたい「想い」を受け取り、経験と想像力と、その為に鍛えあげた身体を総動員して、理解し、表現する。

これらは演じる事全てに通じることではありますが、声での演技には、さらにまた違った「悦び」が詰まっています。

小さな録音ブースで、独り静かにトリハダを立てている男というのは、しかし他人に見せられたものではありませんが。

さて、これから声優を目指そうと考えている方々へ。

…なにかアドバイスになりそうな事を書きたいのですが、考えれば考えるほどに「こうすればよい」とは言えなくなってしまいます。

なにをどうすべきか?

自分で一生懸命考えて行動してください。

それが正解だったかどうかも、自分で決めて下さい。

そしてこの道を選ぼうとしているのは自分自身だという事を、決して、忘れないでください。

健闘を、心よりお祈りいたします。