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記事 6件
  • 犬飼博士 安藤僚子 スポーツタイムマシン 第4回 「絶対カワイイものつくる! オープンに向け結集した山口の地元力」【不定期連載】

    2017-08-24 07:00  
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    山口に新しいeスポーツのための装置「スポーツタイムマシン」を作った犬飼博士さんと安藤僚子さんのタッグが、制作当時を振り返る連載『スポーツタイムマシン』。今回の執筆は安藤さん。2013年6月23日、犬飼さんよりも先に山口入りした安藤さんは、7月6日の初日に向けて設営を開始します。「カワイイ」ものを作りたいという安藤さんの思いに、地元の人の力がどんどん集まってきます。

    こんにちは。安藤です。前回は犬飼さんが、主に東京で開発されたスポーツタイムマシンのデザインやプログラムの事を書きましたが、今回は私が山口での制作の話を書きます。スポーツタイムマシン4回目の連載は、4年前の2013年6月23日、3回目の山口入りのことから書きはじめます。この日から、スポーツタイムマシンのオープンまで、いよいよ山口での滞在制作のスタートです。
    滞在制作スタート! ライバル(?)たちの動向を横目に
    YCAMへ着くやいなや、すぐに2年前の山口国体のメイン会場だった維新百年記念公園陸上競技場へ移動。山口市の職員で陸上スポーツ少年団のコーチをしている金子さんが県にかけあってくださり、国体で使った陸上用床材を貸していただけることになりました。維新百年公園は山口県の施設で、YCAMからも車で10分くらいのところにあります。最初に山口を訪れた時、地元の人がスポーツする場所を見学したいと思い、犬飼さんと見学に来た場所でした。レノファ山口FCの試合も小学生の陸上競技大会をリサーチしに来たのもこの公園です。 前回2回目の山口滞在では、足りないお金を工面するために山口中を駆け回ってました。募金箱を首から下げて歩き、とにかくいろんな人を紹介してもらい会って話し、お金だけでなく人材や機材の提供もお願いを続けていました。
    6月17日ブログ「スポーツタイムマシンを一緒につくろう!」 
    その成果が、山口県から国体で使った床材をお借りできるということにつながり、幸先の良いスタートとなりました。OPENまであと2週間、久しぶりに戻った山口市の街中を歩くと、YCAM10周年記念祭が始まる前のソワソワとした気配が感じられました。スポーツタイムマシンの会場がある山口市中心商店街には、外灯にフラッグが吊り下げられ、いたるところにポスターが貼られています。おなじLIFE BY MEDIAの出展仲間のブースも着々と建設されていました。 
     LIFE BY MEDIAでは、私たちを含め3組の作家が選ばれました。 そのうちの一人が、西尾美也さん。ナイロビにアーティスト留学の経験を持ち「服」をテーマに活動しているアーティストです。 様々な芸術祭でよく名前を目にするくらい活躍しており、滞在型制作に慣れた先輩アーティストという印象でした。山口では、市民の人から要らなくなった服を集めて、服の貸し借りができるパブリックなワードローブを作る「パブローブ」という作品の制作でした。 会場は商店街の中心的存在、井筒屋百貨店の目の前の広場でした。西尾さんはまだ山口入りしておらず、作品を展示する為の木造の屋台やポスターなどの制作は、YCAMスタッフが手配をして、彼が来なくとも既に出来上がっていました。3組とも同じ予算での制作です。与えられた、限られた予算の中で、無駄な行動や出費をしないで効率よく制作を進めている様子が伝わってきました。
    西尾美也「パブローブ」ウェブサイト
    一番乗りで山口入りしていたのは、深澤孝史さん。深澤さんも、様々な芸術際での滞在制作を手掛けているアーティストです。 お金ではなく自分の得意なことを銀行に預けて、預けた人同士が、得意なことを貸し借りできる「とくいの銀行」という作品です。西尾さんの会場のすぐ斜め前の、小さくてきれいな空き店舗が会場でした。店内を覗くと、店舗を銀行の支店に見立てるべく、深澤さんと地元の人で内装の準備を着々と進めていました。
    深澤孝史「とくいの銀行」ウェブサイト
    滞在制作に慣れている2人と比べ、アーティストとして新参者の私たちスポーツタイムマシンは、無駄に動き足掻いているだけで、まだ何も出来上がっておらず、ずいぶん置いていかれている気持ちでした。
    東京を出る前、念のためブログでこんな呼びかけをしておきました。
    6月18日ブログ「【募集】山口で会場づくりを手伝ってくれる人!」
    スポーツタイムマシンの会場に着き、東京から送った荷物を下しYCAMの町中展示担当の伊藤友哉さんが帰ると、何もない広い会場にポツンと一人投げ出された気持ちになりました。何からすれば良いのか…。とりあえず段ボール箱を机にPCを立ち上げ、ひとりでブログを書きました。 誰か手伝ってくれる人が入ってくるかもしれないという期待から、わざと入口近くに座っていましたが、通りすがりのおばあさんが「何か出来るのか?」とのぞき込んでくるだけでした。明日から本格的に現場施工の開始です。
    本当に誰か来てくれるのだろうか? 前回山口に滞在した時にお会いして手伝いのお願いをした人たちは、本当に来てくれるのだろうか? 不安と孤独感でこの日を終えました。
    少しずつ現れ始める山口コミュニティの底力
    6月24日(月)、現場初日。 午前中に訪ねてくれたのは、舞台照明を専門に施工しているottiの伊藤馨さんと秦電機工業の秦睦雄さんの2名。どうしてもプロでないとお願いできない、壁づくりと電気配線の作業は事前に伊藤さんに依頼していました。 プロが2名も居るとさすがに心強く、サクサクと明日からの工事の段取りの打ち合わせが進みました。しかし、私たち以外に、元々100円ショップだったこの空き店舗に映像とかけっこが出来るスポーツのタイムマシンができるなんて誰も分からないだろう、という不安は拭えません。少しでも町の人に気づいてもらいたい、関わりを持ちたい。手書きの「スポーツタイムマシン建設現場工程表」を表に貼り出し、模型と、手伝ってくれる人募集のチラシを置いて、中の工事の様子の見える化を試みました。

    ▲スポーツタイムマシン建設現場工程表

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  • 犬飼博士 安藤僚子 スポーツタイムマシン 第3回 「山口の人にバトンを渡すため、まず僕らの全力疾走」【不定期連載】

    2017-05-09 07:00  
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    山口に新しいeスポーツのための装置「スポーツタイムマシン」を作った犬飼博士さんと安藤僚子さんのタッグが、制作当時を振り返る連載『スポーツタイムマシン』。今回は、山口と東京で見つけた仲間たちの協力のもと、スポーツタイムマシンが少しずつ形になっていく様子を、犬飼さんの視点から語ります。
    こんにちは犬飼です。
    今回は前回の安藤さんに引き続きスポーツタイムマシンを作るための山口のリサーチと、主に僕が行った電子プログラム開発部分のお話しをさせていただきます。
    展示開始は2か月後です。
    YCAMの人たちからは「間に合わせてね」とやさしい言葉と厳しい目つきで指定されております。そんな緊張感ある時期のお話しです。 
    プロジェクトが目指すゴールのデザイン
    ライフバイメディアというテーマの作品であるスポーツタイムマシンの事前リサーチ。つまり山口のライフサイズを調べる活動は、僕たちが山口を知ることと同時にスポーツタイムマシンをいっしょに”作って”、”運営して”、”遊ぶ”ための仲間探しでした。
    「こんにちは。突然すみません。」
    「こんな場所にこんなマシンを設置しようと思っています。」
    「このアイデアはどう思いますか?」
    「このマシンを7月にオープンさせるので一緒に作りませんか?」
    「物もお金も人も足りないのです。協力してくれませんか?」
    こんな会話をあっちこっちでする旅です。
    安藤さんは内装というモノ、僕はコトの設計と制作をおこないます。
    コトの設計というのは、ある物や者の間にある「関係」をデザインするということです。
    スポーツタイムマシンというモノと山口を、人々の関係を作っていく、それがこの時に僕が始めたことです。
    今回は電子プログラムだけでなく人や町、商店街そのものがメディアになるための事前リサーチで、人と会う行為そのものが制作になっていきます。
    コトをデザインする手法の一つに、僕がずっと携わってきたゲームデザインがあります。モニター画面の中だけのゲームではなく、モニターを飛び出してしまったゲームのデザインです。
    ゲームデザインでは、なんらかのゴールと報酬を用意します。
    報酬では失礼なのでプレゼントと言い換えます。
    山口の人たちに用意したプレゼントは”笑顔になってもらうこと”だと
    この段階で決めました。
    初対面の人にはわざわざ「笑顔をプレゼントします」とは言いませんが
    少し仲良くなって負担を多くかけてしまう仲間には、「あなたを含め、山口の人が自ら行動して内発的に笑顔になってもらうように頑張りましょう」と伝えていました。
    僕は当時のブログにこう書きました。

    YCAM10周年のお祭りを、YCAM、商店街、山口市、県、県外の人たち全員で参加して盛り上がるイベントにして、みんなを笑顔にしたいのです。
    笑顔があればいいです。
    ただそれだけなのです。
    そして
    その先にはもっと大きな
    絶対イエーイはあるはずなんです。
    (中略)
    25年前、石井聰互さんが、キューブリックの「2001年宇宙の旅」等をさして絶対映画というのがあるんだと言いました
    その先です
    人類はもう25年も拡張をしてきたのです
    絶対イエーイ
    ジョン・レノンがピースというように、
    ジェーン・マクゴニガルがエピックウィンというように
    ぼくは絶対イエーイというんです。
    (ブログ 絶対イエーイはあるんですよ。)

    つまらないレトリックに聞こえてしまうかもしれませんが、お祭りやスポーツ、遊びで得たい報酬は「楽しくなる気持ち」しかなく、それが得られたとき身体というデバイスに表示されたものが笑顔であり、僕らは“口角の上がり具合”で楽しんでくれたと認識するしかないという意味です。
    安藤さんは、この時期しきりに「ゼッテーかわいい物を作る」と言っていました。
    安藤さんは“かわいい物”、僕は“笑顔”を。
    この2つは、この山口から数年たった今もなおゴールとして掲げられています。
    デザインをするメディアの差からこのような言葉の差が生まれます。
    安藤さんがなにかをつくると、かわいいものが出来上がってくるのですが
    「そのかわいいって何?」という僕の質問にはなかなか言葉が出てきません。
    うーんと眉間にしわを寄せて睨んでくるか無視されます。
    信じてとにかく任せるしかないのです。信頼しています。待ちます。
    ですが、待っているだけでは平行してするべき僕の作業もすすまないので困ることもあります。「それ、かわいくない。」僕はずっとこの安藤さんが何度も口にする「かわいい」について苦心します。
    コトのデザインとして内発的な「かわいい」をめぐるデザインのやりとりは、また後の連載でふれたいと思います。
    とにかくスポーツタイムマシンを“作って”、“運営して”、“遊ぶ”あいだに「笑顔とかわいい」をプレゼントできるようになることが全員の共通の目標として、山口に触れていったのです。

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  • 犬飼博士 安藤僚子 スポーツタイムマシン 第2回 「山口のライフサイズをさがして」【不定期連載】

    2017-03-28 07:00  
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    犬飼博士さんによる連載「スポーツタイムマシン」。今回から制作のパートナーでもある安藤僚子さんが執筆に加わります。全く新しいeスポーツのための装置「スポーツタイムマシン」を作ることになった二人がタッグを組んだ経緯や、山口で活動を始めた頃の様子を安藤さんが振り返ります。

     はじめまして、空間デザイナーの安藤僚子です。
     連載第1回では、2013年のお正月に私が犬飼博士さんを焚きつけて、山口情報芸術センター(YCAM)の10周年記念祭で企画された公募展示「LIFE by MEDIA国際コンペティション」への応募案として、「スポーツタイムマシン」のアイデアが誕生。同年4月、審査を経て見事に受賞するまでの発端の経緯を、犬飼さんが語ってくれました。
     今回は私の視点から、山口を初めて訪問していよいよスタートした、スポーツタイムマシンの作りはじめの時の様子を振り返ってみたいと思います。
     しかし、その前にまず、私と犬飼さんがタッグを組んだ経緯を、すこし遡ってお話ししておきます。

    ▲完成した「スポーツタイムマシン」の様子
    凸凹タッグのはじまり
     2013年のお正月に犬飼さんを焚き付けた、これがそのメールです。
    スポーツタイムマシンの始まり | スポーツタイムマシンで走ろう! Sports Time machine Blog
     今は2017年の3月なので、もう4年前です。どうしてこんなメールを送ったかというと、このころ私が抱いていたある不安と希望からでした。
     私は店舗などの商業施設の設計の仕事をしているのですが、IT時代に実店舗よりもECサイトにお金をかける企業も多くなり、私のような実空間をデザインする仕事はそのうち必要とされなくなるのだろうか、という不安を感じていました。
     でも私たちの身体は、この実空間にある……。情報と空間をうまく融合させることが、今後の自分の大きな課題になると考えていました。犬飼さんと一緒に仕事をした、日本科学未来館の常設展示「アナグラのうた」の開発で、その思いは一層強くなりました。このプロジェクトは、まさに空間情報科学がテーマでした。
     私のような物質空間(アトムの世界)でモノをつくっている人と、犬飼さんのように情報空間(ビットの世界)でモノを作っている人同士が対話し、考え、モノを作ることに、豊かな未来の可能性と希望を感じたのです。
     一方で、「アナグラのうた」がある場所は国立の科学館です。お金を払い、科学を学ぶ意識のある人しか訪れない特別な場所です。誰もが普通に生活をしている場所に「アナグラのうた」のような空間と情報を融合させた幸せな場をつくることはできないのだろうか。もっと実生活に落としていかないと意味がないのではないか、という満足しきれない思いも生まれました(もっとも、それは今だからこそ言える言葉で、2013年当時の私は、そんな悩みを言語化することさえできない状態だったのですが……)。
     ともあれ、漠然とした思いで悶々とする中、「LIFE by MEDIA国際コンペティション」の公募を見つけ、犬飼さんにメールを出したことから、前回の経緯にあるように、「スポーツタイムマシン」はスタートしたのでした。
    受賞決定! まずはブログをつくろう
     そして、受賞の連絡が来たのが4月の頭、正式発表が4月中旬。
     その時の感想を正直に言うと、「えっ、本当に決まっちゃった!?」
     私たちが受賞したコンペは、賞金として制作費100万円と1往復分の交通費が支給され、山口での滞在場所は用意してもらうという、いわゆるレジデンスアーティストと呼ばれる滞在制作型の公募でした。
     しかし、スポーツタイムマシンの構想は、実のところ100万円では機材費も開発費も足りません。それは、選んだYCAM側も承知の上でのことでした。
     さらに、LIFE by MEDIAの開催日は7月6日。制作期間は、ほんの2ヵ月ちょっと。
     お金も時間も足りない、なんとも無計画なアイデアを作ることになってしまいました。どこから手をつければよいのだろうか?
     4月中は2人でそんな話を繰り返しながら、まだ「つくる」という実感を持てない、モラトリアムな期間だったように思います。
     そんな中、犬飼さんから「まずはブログをつくろう。」という提案がありました。犬飼さんのすごいところは、なんでも動画で記録をするところです。映画監督をやっていたからかもしれないのですが、すぐ録画して、youtubeにアップして、ブログで公開する。
     デザイナーの私は、「作品は形になってから発表するもの」という固定観念があったので、まだできるかどうかもわからないアイデアを公開するという提案には驚きました。
     4月26日、スポーツタイムマシンのブログがスタートします。
     今後スポーツタイムマシンで起こっていくことを記録していくため、これから出会う人々に私たちが何をしているのか説明するため、私たち自身が何をしているのかを整理するために。
     これでもう、後戻りはできなくなりました。
    初めてのYCAM訪問で受けたプレッシャーと衝突
     そんな凸凹タッグで、いよいよ山口に行ったのは5月7日。
     私も犬飼さんも、地方でありながら優れたテクノロジーと研究能力を持ち、先進的なメディアアートを発信することで有名なYCAMの存在は知っていましたが、実際に訪問するのはこれが初めて。メディアアートの作品を見るためだけに山口へ行くほどではなかったし、山口で作られた作品がその後東京で上演させることも多いので、気になる施設だけど、なかなか訪れる機会がなかったのです。
     いろいろ不安はあったものの、国際コンペで選ばれたことは純粋に嬉しく、初めて訪れる場所で、しかも招かれて行くという、ちょっとした旅行気分もありました。そして、なんだかんだ作ることが好きな私は、憧れのメディアアートのセンターで創作の場をもらえることに、ワクワクした気持ちでYCAMに向いました。

    ▲山口情報芸術センター(YCAM)全景
     しかし、実際に現地に到着し、LIFE by MEDIAの企画者である田中みゆきさんとの打ち合わせが始まると、旅行気分は一気に吹き飛びます。
     彼女の要望はたった一つ。
     「YCAMの10周年祭として、ふさわしいクオリティの作品にしてください」。
     突きつけられる現実。私たちとしては、「実際この予算では作れないのは明確なんだから、100万円で作れる規模に縮小したプランで制作します」と言うと、YCAMとしては「そんなもののために100万円払えません。応募してきたんだからちゃんとつくってもらわないと困る」となる。まあ、当然ですね……。
     制作費が足りない、時間がない、土地勘がない。
     そんなことは、受賞したときから分かっていました。それに加えて新たに重くのしかかったのが、スポーツタイムマシンというまだ形のないアイデアによって、私たちの思いだけでなく、山口の人々のためのフェスティバルを盛り上げないといけないという使命をも背負ったことです。
     この使命に対して、私は考え始めました。「与えられた予算で、なんとか実現するにはどうしたらいいか?」と。
     ところが、犬飼さんの感想は全然違ってました。
     「なぜ山口市民でもない僕たちが市民を楽しませなきゃならないの? なぜスポーツタイムマシンをYCAM10周年という3ヶ月だけのお祭りを盛り上げるために作らないといけないの?」
     びっくしりた私は、その後、5月21日のブログにこんなことを書いています。

    「安藤です。今日、考えた事を書きます。私と犬飼さんの2人で始めたプロジェクトですが、実は2人はかなり考え方が違うタイプであること。
    犬飼さんはアーティストで、私はデザイナーであると思う。
    アーティストは社会に問題を提議し、デザイナーは社会の問題を解決するとよく言われる。職能が違うと言うか、考え方のアプローチが全く違う。
    私と犬飼さんもそうで、2人の考え方は違うことが多いです。
    犬飼さんは、スポーツタイムマシンという新しいスポーツのあり方を山口の人にインストールできれば、後は本来は山口の人達でこのマシンを作るのが良いと言う。私はあくまでも作ることにこだわっていて、私たちで考えて真剣に作ったものを山口の人たちに体験してもらって、初めて何かを伝えられるのだろうと思っている。
    この2人の禅問答のような膨大な話し合いの先にどういうタイムマシンが生まれるのか!?」
    (アーティストとデザイナー | スポーツタイムマシンで走ろう! Sports Time machine Blog)

     凸凹タッグではじめたスポーツタイムマシンは、これほど考え方が違う2人でつくるという宿命も背負っていたのでした。初めての山口への訪問は、犬飼さんとのバトルの日々の始まりでもあったのです。


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  • 【新連載】犬飼博士 スポーツタイムマシン 第1回 私はスポーツタイムマシンです【不定期連載】 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.728 ☆

    2016-11-08 07:00  
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    【新連載】犬飼博士 スポーツタイムマシン第1回 私はスポーツタイムマシンです【不定期連載】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.11.8 vol.728
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    今朝のメルマガは、犬飼博士さんによる新連載「スポーツタイムマシン」です。2013年夏、山口県山口市の商店街に突如現れた「スポーツタイムマシン」は、ゲームとスポーツが融合した、全く新しいeスポーツのための装置です。国内外の賞を受賞したメディアアートでもあるこの作品は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。知られざる誕生秘話をお届けします。
    ▼プロフィール
    犬飼博士(いぬかい・ひろし)

    1970年、愛知県生まれ、eスポーツプロデューサー、ゲーム監督。つながりと笑顔を生むツールとして、ゲームとスポーツに着目。スポーツとITを融合した作品発表、大会運営等を手がける。 現代的なスポーツマンシップとしてスペースマンシップを提唱。 人工知能やシンギュラリティを巻き込んだ次世代の「遊び」を研究開発中。
    「私はスポーツタイムマシンです。2013年夏 山口につくられた、世界で最初のスポーツのタイムマシンです。」

    ▲スポーツタイムマシンが最初に置かれた山口県山口市の中心商店街
     
    これはスポーツタイムマシン自身が、繰り返しみなさんに語りかけるメッセージの一部です。スポーツタイムマシンはその名の通り、「スポーツ」の「タイムマシン」です。人々が楽しく遊んでいる姿を記録し、未来に再生して遊ぶためのマシンです。
    まずは、このスポーツタイムマシンの体験とはどんなものかを説明しようと思います。

    スポーツタイムマシン(動画)
    商店街の中を歩いていると、どこからともなく楽しい音楽が聞こえてきます。
    その音の出処をさがすと、大きなキリンの人形や、太鼓、跳び箱、黒板、万国旗など、まるで運動会のようなカラフルな装飾の入り口。
    ガラスドアを開けて一歩中に踏み込むと、25メートルの長いスクリーンと、そのスクリーンの前に敷かれた25メートルのレーンが現れます。
    スクリーンの反対側には、無数のカラフルなカードが壁一面に貼られていて、さまざまな手書きのメッセージが書かれています。
    このカードは、過去に体験した人たちの記録であり感想です。

    ▲壁一面に貼られたカラフルなカード
     

    ▲ カードにはQRコードとメッセージが書かれています
    この中から一枚のカードを選び、スタート地点のお姉さんに渡すと、お姉さんはカードに記載されたQRコードをノートパソコンに読み込みます。
     
    「出走準備ができました」とスポーツタイムマシンの声が部屋に響き、スタートラインに立ちます。
    「位置について」
    スクリーンが暗くなり、音楽が鳴り止みます。静まり返る場内。
    「よーい」
    「……ドン!」
    合図と同時にスクリーンが明るくなり、勢いのある音楽が流れ始めます。

    ▲スクリーンの前のレーンを疾走する女の子
    スクリーンには、女の子と同じ大きさの影が投影され、女の子と一緒に走り始めます。隣を走る影に負けないように、女の子は全力で走ります。
    お母さんや友達が「がんばれー」と手を叩いて応援をします。

    ▲25メートルのレーンの端まで走ったら折り返して戻って来ます
    「折り返し地点です」
    25メートルを走り切って、壁付近で折り返して戻ってくる女の子。その後をスクリーンの影も追いかけます。終着地点は最初のスタートラインです。女の子がラインを通過すると同時に「ゴールです」とスポーツタイムマシンの声が鳴り響きます。
    「勝ったー!」
    女の子と見ていた友達は大喜び。拍手をして健闘をたたえます。
     

    ▲ ゴールの後はみんなでリプレイを見ます
    スクリーンでは、すぐさまリプレイが始まります。
    小さな2つの影が、25メートルのスクリーンを端まで走って、ふたたび戻ってきます。先ほどの女の子が走ったときの様子が影として記録され、スクリーンに投映されているのです。
    このようにスポーツタイムマシンでは、スタートからゴールまでの間、レーンの中で起きた出来事を記録して、再生できるマシンです。女の子は、自分自身のカードを壁の中から選び、そこに記録された過去の自分とかけっこしていたのです。
     
    走り終えた女の子は、息を切らせたまま、お姉さんから新しいカードを受け取り、日付や名前、感想やイラストを書いて壁に貼ります。こうして、また新しい対戦相手のデータが一つ増えていくのです。

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  • 【対談】犬飼博士×中川大地『Pokemon GO』から考える近未来の社会――Nianticが設計するヒューマン・コンピュテーションの可能性 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.674 ☆

    2016-08-24 07:00  
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    【対談】犬飼博士×中川大地『Pokemon GO』から考える近未来の社会――Nianticが設計するヒューマン・コンピュテーションの可能性
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.8.24 vol.674
    http://wakusei2nd.com


    今朝のメルマガは、評論家/編集者の中川大地さんと、eスポーツプロデューサーの犬飼博士さんの対談をお届けします。『Ingress』に深くコミットし、『ポケモン』の全作品をプレイし続けてきたという犬飼さんと、本メルマガで「現代ゲーム全史」を連載し、その書籍が本日発売になる中川大地さん。ゲームの文化・歴史に精通する二人が、『Pokemon GO』ブームと今後の可能性について語り合いました。
    本メルマガで連載されていた中川大地さんの『現代ゲーム全史』の単行本が、本日、発売になります。ファミコン以前の時代からスペースインベーダー、マリオ、ドラクエ、FF、パズドラ、Ingress、さらにはPokemonGOまで――。"文化としてのゲーム”のすべてを一望できる大著です。ぜひともお買い求めください!
    『現代ゲーム全史−−文明の遊戯史観から』
    (紙)/(電子)
    ▼プロフィール
    中川大地(なかがわ・だいち)

    1974年東京都墨田区向島生まれ。ゲーム、アニメ、ドラマ等のカルチャー全般をホームに、日本思想や都市論、人類学、生命科学、情報技術等を渉猟して文化と社会、現実と虚構を架橋する各種評論の執筆やコンセプチュアルムック等を制作。批評誌『PLANETS』副編集長。著書に『東京スカイツリー論』、編書に『クリティカル・ゼロ』『あまちゃんメモリーズ』など。
    犬飼博士(いぬかい・ひろし)

    1970年愛知県生まれ。ゲーム監督、eスポーツプロデューサー。IT(ゲーム)とスポーツの間に生まれた情報社会のスポーツ「eスポーツ」や、空間情報科学をテーマとした展示「アナグラのうた 消えた博士と残された装置」、「未来逆算思考」、「eスポーツグラウンド」、「スポーツタイムマシン」など、身体的コミュニケーションを誘発するフィジカルな作品を制作。近年は運動会を次世代ゲームプラットフォームととらえる「未来の運動会プロジェクト」を進行。「超人スポーツ」委員としても活動中。
    ◎構成:長谷川リョー

    ■『妖怪ウォッチ』への米国からの応答としての『Pokemon GO』
    中川 日本での配信開始から1ヵ月、『Pokemon GO』はすっかりコミュニケーションインフラとして定着しました。それによって、一定のプレイ文化の形成も徐々にされてきている印象があります。犬飼さんは、本作の前身にあたる『Ingress』でも地域ベースのプレイヤーコミュニティの運営に深く関わっていらっしゃいましたが、両者を比べてみた印象はいかがですか。
    犬飼 『Ingress』が出たときよりも興奮していますね。初めて『Ingress』をプレーしたときは、初めてのことが多すぎて何が何だか分からなくて、面白さを発見するまでに時間がかかったんですよね。じわじわと興奮がやってきた。一方もともと『ポケットモンスター』シリーズは大好きで、新作が出る度に買っているんですが、今回の『Pokemon GO』の最初の感触も、新作をプレイするときの興奮に近かったかもしれない。『Ingress』と『ポケモン』の新作が合体してやってきたので興奮しています。
    中川 アメリカで先にリリースされて騒ぎになっていたことも期待感を高めましたよね。日本でのリリース日がなかなか決まらないので、かつてのドラクエの発売日前のワクワクがいつまでも続いているような、ゲームにまつわる懐かしい空気を多くの人に味わわせてくれた感があります。
    このメルマガで連載していた「現代ゲーム全史」は2014年までが最終章になるので、最終回では『Ingress』と対比させて『妖怪ウォッチ』を取り上げたのですが、『Pokemon GO』は『妖怪ウォッチ』が『ポケモン』から取り込んで進化させた部分――目に見えない妖怪が近づいてくると反応して、覗くと妖怪が見える、というAR的な機構を、再び奪還したような関係になっている。9月に発売が予定されている「Pokemon GO Plus」にしても『妖怪ウォッチ』のコンセプトそのままですよね。つまり、アメリカ産のAR技術と、アニメ『電脳コイル』でもモチーフになっていましたが、日本の妖怪という想像力が融合することで、『Pokemon GO』というコンテンツが生み出されたわけです。しかし、それがアメリカであそこまで熱狂的な盛り上がりをみせるのは意外でした。

    ▲「Pokemon  GO  Plus」(出典)
    (参考)『妖怪ウォッチ』と〈拡張現実〉的想像力の未来(中川大地の現代ゲーム全史・最終回)
    犬飼 日本の場合は、ゲームに触れるより先に、マスメディアによって煽られてしまった部分が大きいと思います。「『Pokemon GO』という面白いゲームが出るらしいぞ」ということが、広告や宣伝ではなく、社会現象として世間に広がって、ニュースで大々的に報じられたり、リリース前なのに内閣府から「注意せよ」とお達しが出るなど、ありえない現象が起こっていった。
    これはアメリカ在住の友人から聞いた話ですが、向こうでは最初から劇的な盛り上がりがあったわけではなく、街中で遊ぶ人が少しずつ増え始めて、それが取材されてマスメディアに乗り、YouTubeで拡散されて社会現象化していった。その過程で起きていた現象は、単純に人が集まっただけです。「パーティーをやってるらしいぞ!」と噂になったけど、何のパーティーなのかよく分からない。音楽も流れていないし、ただスマホを持った人がウロウロしているだけ。こんな風に街中に人が集まる現象を、これまで誰も体験したことがなかった。
    中川 これまでも風景にタグがついたり特定の場所にチェックインするとバッジがもらえる仕組みのARアプリはありましたが、「見えないもの」を見たい、という動機があって初めて一般の人々が衝き動かされて、社会現象として可視化されたということですね。
    ■『ポケモン』に伏在するアメリカ文化への幻想
    犬飼 アメリカでは『Pokemon GO』のプレイヤーを狙った強盗が現れたり、プレイ中に死体が発見されたりといった事件が起きていますね。
    中川 『Pokemon GO』で遊んでいて死体を見つけてしまった話は、すごく象徴的だと思います。『ポケモン』は『MOTHER』の強い影響下にあることが知られていますが、もともと『MOTHER』というゲームは、映画『スタンド・バイ・ミー』のような、アメリカの田舎の少年の成長物語にインスパイアを受けている。要するに「幻想としてのアメリカ」をモチーフとしているんです。
    映画『スタンド・バイ・ミー』は、子供たちが現代人にとって他者性のある「死体」を探しに行くという、一種の通過儀礼を描いた作品ですよね。つまり、『Pokemon GO』は「死体を発見する」という『ポケモン』の原点にあたる風景を、もう一度、逆輸入する形でアメリカに現出させたわけです。こういった、危険も含めた原体験のようなものは、さんざん注意喚起された後にリリースされた日本では味わえないので、正直、羨ましささえ感じます。

    ▲1989年発売のRPG『MOTHER』。糸井重里、宮本茂が手がけたことでも有名。(出典)

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  • 未来のスポーツに必要なのはゲームデザイナーの力 ――【鼎談】「未来の普通の運動会」発起人・犬飼博士×中村隆之×江渡浩一郎 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.133 ☆

    2014-08-12 07:00  

    未来のスポーツに必要なのはゲームデザイナーの力
    ――【鼎談】「未来の普通の運動会」
    発起人・犬飼博士×中村隆之×江渡浩一郎
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    2014.8.12 vol.133
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    今日の「ほぼ惑」は、プレ『PLANETS vol.9 特集:東京2020』企画として、スポーツに〈テクノロジー〉や〈ゲームデザイン〉の知を持ち込んだ「未来の普通の運動会」仕掛け人たちへのインタビューをお届けします。2020年の東京オリンピックを見据え、ゲームデザインの力は、スポーツの在り方をどう変えていくのでしょうか――?

    去る7月5日、「未来の普通の運動会」をテーマに、デジタルゲームの技術や方法論を応用して、まったく新しいスポーツ種目を創造しようという風変わりなハッカソン(※主にIT系の開発者たちによる協同開発イベント)が、神奈川工科大学にて行われ