旧暦2033年問題
 現在のカレンダーには春分や夏至といった24節気とよばれるものが書き込まれています。また大安や仏滅といった六曜が書き込まれているものもあります。これらは旧暦といって江戸時代に使われていた暦を現代まで適用したものです。
 旧暦というのは太陰太陽暦の一種で、朔(さく=新月)の瞬間を含む日を1日として次の朔までを1ヶ月とする太陰暦を基準として、それに太陽の動きを加えて1年を決めるものです。
 1朔望月=29.531日なので、1ヶ月の日数は29日か30日のどちらかになります。しかしこれでは12ヶ月=354日となり1年には11日ほど不足します。「年」という概念がなければそれでもかまわないのですが、農業をおこなうには季節がわかる太陽暦のほうが有利なので、天球上の太陽の動きにあわせて24節気や72候を入れたものを折衷しているのが太陰太陽暦です。24節気72候については別の話題をご覧ください。

 日本で使われていた旧暦は1844年に幕府の天文方 渋川景祐(しぶかわかげすけ 1787-1856)らによって作られた暦で一般に天保暦といいます。正式には天保壬寅元暦(てんぽうじんいんげんれき)です。天保暦はそれ以前に用いられていた寛政暦や中国の授時暦とはことなり、定気法とよばれる時間決定法を用いて24節気を決めたことが特筆されます。
 現在のカレンダーに書かれている旧暦の節気や雑節(節分、土用や半夏生など)は、現代科学で観測・計算された太陽や月の動きに天保暦のルールを適用したものなのです。
平気法と定気法
 まず天保暦以前に用いられていた平気法(恒気法)と天保暦で採用された定気法の違いを簡単に解説します。
 平気法では冬至と冬至の間(=1太陽年=365.2422日)を24等分します。そのため24節気の時間間隔は 15.218日となり 中気と中気の間隔(中と節を交互に置いているため)は30.437日となります。下図で冬至を出発した太陽が等速で黄道を移動すると考えます。
 これに対して定気法は実際の太陽の黄経をもとに節気を決めています。地球が太陽の周囲を公転する速度は、軌道が楕円であるため一定ではありません。近日点(1月7日頃)に近いほど速く、遠日点(7月6日頃)で最も遅くなります。地球から見た太陽の動きも同様です。黄道を移動する速度が一定ではないので中気と中気の間隔も一定ではありません。
月と日付の決め方
 月は地球の周囲を公転しています。地球から見て太陽と同じ黄経なる瞬間を朔(さく)といい新月です。朔を含む日をその月の1日とします。朔から次の朔までの時間を朔望月といい29.531日です。つまり旧暦の1ヶ月は29日か30日になります。夜間照明が月しかない時代には月の形を見て日付を知る太陰暦のほうが太陽暦より便利でした。
旧暦(天保暦)の月名を決める法則は次のようになっています。
(1) 1ヶ月は月の満ち欠け(朔望月)によって29日または30日とする。
(2) 1年は12ヶ月または13ヶ月である。13か月ある年は閏月がある。
(3) 24節気(春分・清明・・・)を中気と節にし交互に配置する。
(4) 中気のない月を閏(うるう)月とする。
(5) 春分を含む月は2月、秋分を含む月は8月、夏至を含む月は5月、冬至を含む月は11月とする。
天保暦の問題点
月の公転周期(朔望月)は約29.531日です。中気と中気の間は365.2422/12=30.437日で朔望月より長いので、1朔望月の間に中気を含まない月ができます。この月を閏月(うるうつき)とします。メトン周期によれば19年に7回の閏月が入る計算になります。
 これだけだと問題は起こらないのですが、定気法を採用している天保暦では中気と中気の間が一定ではなく1朔望月より短くなることがあるのです。  天保暦は必ず30.44日間隔で中がやってくるのではなく多少の増減があります。その原因は天保暦独特の定気法と呼ばれる24節気の決め方にあります。天保暦以前の暦では平気法と呼ばれる節気の決め方をしていました。これは必ず30.44日で中がやってくるので問題はありません。
 定気法は実際の太陽の黄経を基準に節気を決めています。ところが地球の公転速度は軌道が楕円なため一定ではなく、当然地球から見た太陽が黄道上を移動する速度は一定ではありません。ときには中気と中気の間隔が1朔望月より短く1ヶ月に2度の中気が入る可能性があります。
2033年
そこで2033年ですが、朔の瞬間の日付と時刻を示したものです。
それぞれの月名をA〜Hとすると

  朔の時刻含まれる中気とその時刻(グレゴリオ暦)
A月 2033年 5月28日20時39分 夏至  6月21日10分03分
B月 2033年 6月27日06時 9分 大暑  7月22日21分55分
C月 2033年 7月26日17時14分 処暑  8月23日04時04分
D月 2033年 8月25日06時41分 
E月 2033年 9月23日22時41分 秋分  9月23日01時53分
F月 2033年10月23日16時30分 霜降 10月23日11時27分
G月 2033年11月22日10時40分 小雪 11月22日09時15分 冬至 12月21日22時44分
H月 2033年12月22日03時48分 大寒  2004年1月20日09時25分

A月は中である夏至を含むので5月です。(ルール5です)
B月は次の中である大暑を含み6月です。
C月は次の中である処暑を含み7月です。
D月は中がないので うるう7月となります。(ルール4です)
E月は初日の午前中(9月23日午前2時)に秋分があるので8月です。(ルール5です)
ところがG月は冬至(12月21日午後23時)を含むので11月にしなければなりません。つまり8月と11月の間にF月しかないことになります。F月を9月にすれば10月が、10月にすれば9月がなくなってしまいます。
 G月には、小雪から冬至までの間隔が1朔望月より短く中気が2つ含まれてしまいます。このため1年=12ヶ月なのに閏月が入るため存在できない月名が生じます。これが旧暦の2033年問題といわれるものです。

2004.5.17
2005.11.23追補

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