岐阜大学と岐阜聖徳学園大学は5月25日、長野県東部に位置する八ヶ岳火山北部の崩壊で発生した「大月川岩屑流堆積物」中の埋没樹木の放射性炭素(14C)年代測定を行い、このイベントが西暦887年に起こった可能性が高いことを明らかにし、近くを通る「糸魚川-静岡構造線」の南部に沿った活断層が、同年発生した南海トラフ沈み込み地震の「仁和地震」に連動した可能性が示唆されたと発表した。

同成果は、岐阜大 教育学部の勝田長貴准教授、岐阜聖徳学園大学教育学部の川上紳一教授(岐阜大 教育学部名誉教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、国際第四紀学連合(INQUA)の国際誌「Quaternary International」にオンライン掲載された。

八ヶ岳は北の蓼科山から南の網笠山まで約20の峰が連なる、長野県から山梨県まで続く火山列として知られるが、噴火したのは有史以前とされている。文献などで記録として噴火のことが一切残されていない上に、地質学的な調査でもそれが裏付けられているためだという。

その八ヶ岳の北部を西から東へと流れ、千曲川へと至るのが大月川で、それに沿って分布しているのが、八ヶ岳北部が大規模に崩壊して生じたとされる大月川岩屑流(がんせつりゅう)の証拠となる堆積物だ。岩屑流が発生したことで千曲川に堰止湖ができ、それが決壊して下流で被害が発生したことを示す遺跡があるほか、「扶桑略記」にも仁和三年(887年)にそれを示すような記述があるなど、1000年以上昔に起こった災害である可能性が示唆されていた。

こうした背景を踏まえ、研究チームが今回着目したのが、大月川岩屑流堆積物中に埋没していた無数の樹木のうちの樹齢400年の大木であり、年輪数の計測や14C年代測定などが行われ、その結果、樹木がなぎ倒されたとされる年代値は西暦838年±17年(西暦821~855年)という結果となったという。

  • 大月川岩屑流堆積物

    八ヶ岳火山と大月川岩屑流堆積物の分布。(a)の八ヶ岳一帯の広域図において右上にある(b)の枠を拡大したのが、右の(b)のマップ。また(a)の左上から中央下へと続く黄色の破線(ISTL)は、糸魚川-静岡構造線 (出所:共同プレスリリースPDF)

考古試料の14C年代測定データベースの構築から、国内の分析値と海外の分析値を比較すると、国内の分析値が系統的に約30年古くなることが近年の研究から明らかにされていることを踏まえると、大月川岩屑流の発生年代は、おおよそ西暦850~890年となり、古文書に記録されたイベントの年代と一致する結果となったという。

  • 大月川岩屑流堆積物

    14C年代測定値、14C曲線のマッチング。黒丸が今回の分析値。図中の曲線が14C標準曲線 (出所:共同プレスリリースPDF)

八ヶ岳の崩壊と大月川岩屑流の発生原因については、これまで、火山活動説、西暦887年に起きた「仁和地震」と呼ばれる南海トラフ沈み込み地震による誘発説などがあったが、火山活動説に関しては、八ヶ岳が活動したという資料や地質学的な記録が見つかっていないが、一方の仁和地震による誘発の可能性については、八ヶ岳が震源域から遠いことから低いと判断されるという。ただし、仁和地震がまったく関与していないというわけではなく、八ヶ岳の近くを走る「糸魚川-静岡構造線」の南部に沿った活断層が活動した可能性は示唆されるとしている。

  • 大月川岩屑流堆積物

    南海トラフ沈み込み地震の震源セグメントと、歴史時代の活動サイクル。西暦887年の仁和3年の仁和地震では、糸魚川静岡構造線に近い場所で、八ヶ岳以外でも大規模岩屑流が発生している (出所:共同プレスリリースPDF)

なお糸魚川-静岡構造線とは、新潟県糸魚川市から静岡県の安部川付近に至る地質境界線で、ここを境に日本列島は西南日本と東北日本に区分されている。日本列島は東北日本と西南日本が合体して現在の形状の基礎ができあがったことから、糸魚川-静岡構造線は日本を真っ二つにする可能性のある巨大な断層といえる。その一部や周辺には、近い将来に大規模な地震を発生させる可能性がある活断層も含まれているとされている。