ついに発売されたデジタルメモ「ポメラ」の開発者インタビュー 第二部をお届けします。開発の経緯やコンセプトについてのインタビュー第一部はこちら。畳めば分厚い文庫本サイズの本体に4インチVGAモノクロ液晶とノート並みのフルキーボード搭載、2秒で起動するテキスト入力専用機ポメラについてはファーストインプレッション記事、タグ:Pomeraページも参照。

お話をうかがったのはポメラの開発を担当したキングジム開発本部 電子文具開発部 開発課リーダー 立石幸士 氏、広報部リーダーの田辺賢一 氏。

Engadget:
テキスト入力機としての仕様に戻ると、現在はATOKスタイルとMS-IMEスタイルが用意されていますが、たとえばCapsLockとCtrlを入れ替えるといったキーバインドの変更は考えられますか。

立石:
要望としては結構いただいているんですけども、現在は考えていません。実はレッツノート・モバイルギアに倣って作ってありますので、キーバインドはまだ考えていないですね。

田辺:
ただこれは初めて作った製品ですので、これで完成したとはまったく思っていないんです。ですから次の機種ですとか、いろんな製品の展開を考えたときには、いま非常にネットとかで意見をいただいていて、賛否両論、不満の声もたくさんいただいているんですが、それに従って改良してゆくというのはメーカーの使命だと思っています。


Engadget:仕様といいますと、やはりファイルサイズの制限が......

立石:

いわれてますね。これは恐らく次では改善ポイントのひとつだろうとは思っているんですけども、なぜ全角8000文字にしたかという理由は最 初に申し上げたように、まずA4ペラ一枚にやりたいこと・必要なものを書いたときに、採用するプロセッサがあって、その容量としてメインメモリが 128KBというところを確保したんですね。でも実は容量だけの話ではなくて、たとえばカットアンドペースト、コピペですとか、たとえばドラッグして範囲 選択したりですとか、そういった裏の動き、編集にかかわるメモリは文字数が多いと負荷が高くなって、もっさりして動くというようなことがあるんですね。

な ので、枠を取っ払うことはできるんですが、取っ払ったときに気持ちよく編集していただけることを保証しかねるような動きになったりするんです。もう使う パーツが決まっちゃってましたので、なんとかサクサク感を、ということで16KB、8000文字のエリアを区切って、規制をしたということになります。

キングジム立石氏


Engadget:ファイル分けはできますよね。

立石:
ええ。ただ、あまりにも言われようが言われようなので、ここはなんとか今後には活かしておきたいなとは思っています。

これを言うとあれですけど、おそらく実際に8000字を書くのは大変ですし、microSDなんかに入れることもできます。「使いこなし」という、決まった制限の中でみなさん工夫して使われるじゃないですか。それを開発者がいうなよという話なんですが。実際にはちゃんとそれなりに満足して使っていただけるのではないかと、僕は思っております。

田辺:
反響の裏返しではないですけれども、恐らく当初われわれが想定した使い方だけではない使い方をしたい方々がいた、という発見があった。われわれは、基本的にはですが、ビジネスマンが会議で議事録を書くような用途を考えていました。不満はPCで編集したものを持ち運ぶとか、長い論文のようなものをポメラで編集・構成したりですとか、長文の小説みたいなものを、こっちにいれれば本が読めるじゃん、ですとか、そういったことはわれわれが想定していた使い方とはちょっと違う。最初から想定していた使い方では8000文字はたぶん、おそらく充分だと思っています。8000文字の議事録を書くのは尋常ではないですから。ところが、違う使い方をイメージされている方にとっては足りないと。われわれとしては、そういう使い方を考えるとひとが居たんだ!ということが今回分かったんですね。ですからなんらかの手段、たとえば次の機種ですとかで、そういった方々に満足していただくことは考えています。

Engadget:それにしてもずいぶん言われていますね。

立石:
あの、「アホ企画者」っていう(一同笑い)。社内でも「おうアホ!」「はいはいアホです」、みたいな(笑)。

田辺:
それこそね。まだお使いになってない方がほとんどですから。8000文字がどう効いてくるのか、というのはおそらく、制限について書いているかたも、われわれとしても実際に使っていただいたときにやっぱり駄目かといわれるのか、まあまあこれだったいいか、となるのか期待と不安が入り交じっています。(※インタビューは発売前。)


Engadget:独立したファイル管理画面はなくて選択ダイアログだけ、ディレクトリ概念もなくてmicroSD保存ではPomeraフォルダにフラットに並ぶようになっている。分割したメモのあいだを楽に移動するための機能、増えたメモの一覧性やブラウズ性についてはあまり重視されていないように思えます。

立石:
そうですね。重視はしていませんでした。やはり外出先で書いたものは、後で母艦であるPCに移して清書していただけるものかなと。常に生成順に上に来るようなシステムにしかしていません。そこも検索性ですとか、ファイルが多くなったときにこれは見づらいよね、という声もいただいていますので、後々のポイントなのかとは思っています。実際の反響が来てからですね。


Engadget:さて、やはりファームウェアのアップデートについてお伺いせざるを得ないのですが......

田辺:
製品としては、ユーザーの手元でアップデートすることを前提とした設計にはなっていません。

立石:
厳密に、ユーザーの手でアップデートできるかできないか?といえば......

Engadget:......なるほど。微妙なところですね。ではまあ公式には「ユーザーがアップデートする製品ではありません」と。

田辺:
そういった声がよほど大きければ対応させていただくことはあり得ますが、今のところ予定はありません。仮になんらかのアップデートをおこなうとして、預かりで書き換えになるのか?というところも会社として決めなければなりませんし。ですから現状では対応できません。


Engadget:ではハードウェアについて。電源ボタンがキーボードの右上にあるから全部開かないと画面が映らない。電源をつけたままキーボードを畳むこともできない。この液晶側だけを開いた状態でメモを見るだけでも見たい!と思えます。

田辺:
分かります。いったんね、見るだけでも。

Engadget:ポケットやかばんから出してさっと画面だけを開いた状態で直前に入力したメモを参照したい。ナビゲーションも必要でしょうから、実際には難しいのかもしれませんけれども。

立石:
実は開発当初はですね、開発で大変なのは意外と開発する行為そのものではなくて、いかにそのシンプルなコンセプトを貫き通すか、という話だったんですね。

こう......(クラムシェル型のハンドヘルドのように持って)、見えるとなんでもやりたくなっちゃうじゃないですか。例えばここにテンキー付けちゃったらどうなの?といったいろいろな案が次から次へと出てくるんですね。社内でコメントもありますし。自分の中でも「ここにジョグダイヤル付けてさ、こうくるくるってやれば......いいんじゃない?」っていうようなところも、まああったんですが、今回あえて、こういう市場を問うてみるといいいますか、敢えて一番コンセプチュアルな、シンプルなかたちで何も付けずにやってみるというところがあります。

Engadget:なるほど。画面を閉じると電源が切れますが、逆に電源を入れるにはキーボードを開いてからさらにボタンを長押しする必要があるのは?

立石:
これはですね。電源をいれるという行為をさせたかった。閉じるときは勝手に切れるんですけども。これはバッテリーが電池なので。20時間といいつつ、本当はもっと長いのを目指していたんですね。だから当初は単三だったのですけれども。電池駆動であるために、勝手に電源を入れられてしまうと困る。意識して使うんだぞ、というところで初めて消費が始まるようにしたかった。

まあ20時間といっても、実際には0.5秒間隔で打ち続けて20時間。実使用でいえばもっと相当保つのではないかと思います。


Engadget:価格は希望小売価格が2万7300円ですね。反響を聞いてみると、安いという人もいれば高い高いという人もいる。誰が見ても安いという値段ではない。この価格に決定した背景は?

立石:
そうですね。まずパーツとしての積み上げが第一点なんですが、よく引き合いに出されるミニノートPC。Asusさんですとか。あの辺、最近はデルとかいろんなところが参入していて、だいたい5万円から6万円ですよね。ネットができてメールができる。ま、ただちょっと狭いんで打ち込みづらいというところですが、あれはあれで割り切った仕様だと思います。結構とんがってるじゃないですか。あれが5、6万円。とすると半額?というところも。

Engadget:きれいに半額ですね。

立石:
で、まあ高いといわれる方への説明といいますか、理由はとしてはやはりこういったよく持ち歩かれるもの、手帳と同じようにかばんにポーンといれて持ち歩かれるということで、当然、落としたりですとか、そういったケースが非常に多くなるな、と思っています。75cm落下試験、コンクリートにドカンと落ちて破損がないというのをクリアするために、意外とこのくらい可動部分が多いものって、クリアするのが大変なんですね。

じゃあクリアするためにどうしたかというと、当然、まずはシャーシの強度を上げる。上のLCDを守るためにはアルミパネルを使っています。で、こちらのキーボードの部分も、このへん(キーボードを開いて)って弱いじゃないですか。こちらのフレームはぜんぶステンレス。裏も全部ステンレスを使っています。かつ、たわみ強度を保つためにステンレスの棒がさらに2本入っているんですね。プラス、このヒンジの部分が壊れやすいというか、耐久性が求められる。ということで、マグネシウムですとかいろいろな素材を試してみて、結果、いまは亜鉛合金というものになっています。粘りと、落下強度と、開閉耐久と。

こういったものを合わせると、意外と結構、テキスト入力だけなのになんでこんな気張っちゃったの?という素材を使っています。まあ、そこらあたりも理由です。

そしてやはり2万7000円という金額を出していただくということで、やはり質感ですね。塗装もUVコートですし、持って満足、みんなに自慢をしたくなるようなものにしたかったんですね。持ってやはり良いだろ良いだろと自慢をしてもらうような商品を狙っていましたので、ラバー塗装ですとか、それなりの価格に反映されているというところはあります。

田辺:
やはりわれわれは文具メーカーなので、落としただけで壊れるものは許されないと思っています。そうした部分でのこだわりは捨てられませんでしたし、過剰といわれるかもしれませんけれども、またやはり所有するよろこび、というものも持たせたい。「まあ便利で安いんだけどもちょっと格好悪いんだよね」というものにはしたくないですよね。やはり持っていて、「あ、これなんですか?」っていわれたときに、「意外にいいでしょ?」といった感じで自慢ができるようなものにはしてあるとおもいます。

Engadget:そうですね。このラバー塗装がなかったら、レビューでも「質感はやや安っぽいが」なんて書かれたと思います。キーボードも折りたたみなのにほとんどたわまない。

立石:
それでもたわむという方、エンターをぱーんと押す方はこれを出してください、なんていう苦肉の策なんですけども(キーボード右半分を下から支えるスライド式の「足」を引き出す)。これは文具ならではといいますか。

Engadget:これは後付けで追加されたんですか?

立石:
設計としては後付けではないです。この開き方は最初から決まってたんですね。そのときに、こっちの(左側の)足はすぐにできるんですけど。ただ半回転する右側って可動部分が多すぎて。かつ、左側とおなじ位置に付けるとブサイクになってしまうんですね。どうしようどうしようと。当初は回転ウィングみたいなかたちを考えていて。それいいじゃない、ってところから現在のスライドの引き出し足になったんですけど。

その前までは、この液晶の横の見えないところにくぼみを作って、キーボード右裏側の足が収まるようにと。でも格好悪いよね、だとかいろんなのを考えました。あとはキーボードの端をかちゃっと折って足にできるように、とか。ですがステンレスだし折れるというのも難しい。厚くなってしまいますし。それで結局このスライドになりました。ただ、作ってみると意外と安定性がいいので、そんなに出さなくても大丈夫かな、とも。

田辺:
電源が一番辛いのかもしれないですね。長押しをしないといけないので。

立石:
これは一日中みんなで侃々諤々と考えていたんですけども、私は実は左利きなので、もういっそのこと開き方を逆にしてみなよと。そうすれば電源とエンターの側は安定すると。すると「それじゃ開けられねーよ!」ということもありました。

田辺:
お前だけだろう!って。


Engadget:それはすごいアイデアですね(笑い)。ではこの記事を読んでいる読者に、特にこういうものはとりあえず買っておかないと次が出ないんじゃないか?と義務感を感じているような人になにかひと言いただけますか。

立石:
世の中に便利なものが溢れて、なんでも付けて高くという流れ、風潮がある。それにうんざりしているユーザーはたくさんいるはずです。もういいよ。お腹いっぱいです、いいから必要な機能だけをくれ、と思っていらっしゃるかたが。私もそうだったのでこれができました。そういう人たちのためにまずはお届けしました。この割り切りが気持ちいいでしょう?みたいな。自分で言ってしまうのはなんなんですけども(笑い)。

田辺:
使い心地というものがあると思うんですね。これは立石がよく言っていることなのですが、料理人が十徳ナイフを使わないように、もっと一般的に言ってしまえば、写真はデジカメですよね。携帯のカメラもその場でそういう状況になったら使いますけども。やはり写真はデジカメで。おなじように書くことに特化したもの。そういった単機能だからこその使い心地はあります。

ただ、さきほどから申し上げているように、100点のものが出せた、とは思っていません。実際にはいろいろなご意見があると思います。そこはわれわれとしては真摯に受けとめていきますし、さらに良い製品を作っていきたいと思いますが、いま、われわれに出せる答えはこれです。触っていただいて、まずはご評価ください。と。

Engadget:本日はありがとうございました!