米債務上限問題のアップデート

2023年5月10日

●米政府の債務残高はすでに法定上限に達しており上限引き上げなしなら米国はデフォルトに陥る。
●米財務省の特例措置でも早ければ6月1日に債務支払い不能となるが与野党の対立は継続中。
●最終的には債務上限の引き上げか適用停止で合意とみるが、デフォルト寸前の合意となる恐れも。

米政府の債務残高はすでに法定上限に達しており上限引き上げなしなら米国はデフォルトに陥る

米国では現在、債務上限の引き上げを巡る交渉が議会で難航しており、米連邦政府が偶発的な債務不履行(デフォルト)に陥るリスクが高まっています。債務上限とは、政府が国債発行などで借金をすることができる債務残高の枠のことで、債務が法定上限に達すると、政府は議会の承認を得て上限を引き上げます。しかしながら、引き上げられない場合は、国債の新規発行ができなくなるため、デフォルトに陥ります。

 

債務の法定上限については、2021年12月15日に2兆5,000億ドル引き上げる法案が議会で可決され、翌16日にバイデン米大統領の署名を経て成立しました。これにより、法定上限は約31兆4,000億ドルとなりましたが、2023年1月19日に政府の債務残高が法定上限に達したため、米財務省は一部の公的年金基金への新たな資金拠出を制限するなどの特例措置を講じ、手元資金をやり繰りしています。

米財務省の特例措置でも早ければ6月1日に債務支払い不能となるが与野党の対立は継続中

イエレン米財務長官は5月1日、議会指導部に対して債務上限問題についての書簡を送り、「(特例措置によっても)6月上旬には政府債務をまかなうことができなくなり、その前に議会が債務上限を引き上げるか、適用を停止するかの決定をしなければ、早ければ6月1日にも債務の支払いができなくなる」可能性を伝えました。また、イエレン氏は5月8日、米CNBCの番組で、政府の資金繰りが行き詰まれば、「経済的な大惨事になる」と述べました。

 

債務上限問題の解決が遅れているのは、バイデン政権と野党の共和党との対立が続いているためです。共和党は、債務上限に対応する条件として、厳しい歳出削減を求めている一方、バイデン政権は、歳出削減を伴わない無条件の債務上限引き上げを目指しています。なお、バイデン米大統領は5月9日、共和党のマッカーシー下院議長ら議会指導部と債務上限問題について協議を行いましたが、進展はなく、5月12日に再協議する見通しです。

最終的には債務上限の引き上げか適用停止で合意とみるが、デフォルト寸前の合意となる恐れも

米国では過去、何度も債務上限の引き上げが政治問題となりましたが、そのたびに債務上限の引き上げか、適用停止で乗り切ってきました(図表2)。なお、2011年は、債務上限引き上げ後、8月5日に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格下げを発表しました。これを受け、ダウ工業株30種平均は7月21日の直近高値から10月3日まで16.3%下落し、7月21日の水準を回復するまで半年ほどかかりました(終値ベース)。

 

前述の通り、財務省は早ければ6月1日にも資金繰りが行き詰まる可能性を指摘しており、いわゆるこの「Xデー」が近づくにつれ、市場で警戒が強まる恐れがあります。仮に米国がデフォルトに陥り、それが長期化した場合、金融市場に甚大な影響が及ぶことになります。そのため、議会は最終的に、債務上限の引き上げか、適用停止で合意すると思われますが、デフォルトが迫るギリギリの合意になることも十分考えられます。