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俺の邪悪なメモ このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-07-14

炸裂!!!!!『必死剣鳥刺し』


今回はマジでオススメの邦画を紹介します!

トヨエツ主演の時代劇『必死剣鳥刺し』。いやー、面白かった!


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本作は藤沢周平の同名小説を映画化したもの。

俺は、藤沢周平の作品って江戸時代を舞台に、とても現代的な(昭和的な?)できごとを描いたものが多いと思っています。

本作もパッケージとしては剣豪物語なんだけど、主人公(トヨエツ)が組織(藩)の中でどうやって筋を通していくかという、なんともサラリーマン的な話なんですね。

組織のために思い切った行動に出たんだけど、その結果は必ずしも芳しくなく、忸怩たる思いが残ってウジウジ。せめてもの罪滅ぼしに、組織に尽くそうとするんだけど、こんどは派閥争いに巻き込まれる……けど女にモテる

というね、なんとうか、藩士 島耕作みたいな?

ただ、島耕作と違うのは、サクセスストーリーではなく、どちらかといえば、「ままならなさ」を描いていること。そして最後に壮絶な斬り合いがあることです。


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原作の小説では主人公の内面はあっさり書かれてる印象なんですが、この映画版では前半から中盤にかけては、トヨエツがウジウジする様をじっくり描きます。ちょっと描き方が淡々としすぎな気もしましたが、その分、最後に激しい血の雨が降るところで、組織に殉じようとした"個"の爆発が鮮明になっています。


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※本作は「ちゃんと血が吹き出る」時代劇です。マーベラス!


このクライマックスの斬り合いは、見応え抜群。

荒唐無稽なアクションではなく、人間同士の命の取り合い。呼吸の読み合い、刀という武器への畏れ、さらに人が戦いの果てに人あらざる何かへ変貌していくことすら表現した素晴らしい殺陣だと思いました。


そして、最後の最後に……

炸裂しちゃうんですねー、鳥刺しが!

おつまみじゃないですよ? 「必死剣鳥刺し」有り体にいって必殺技です。

俺が見た回は、鳥刺しが炸裂した瞬間、「おおっ!」っと劇場がざわめきました。

タイトルからして『必死剣鳥刺し』なわけですから、そりゃ誰だってクライマックスで鳥刺しが炸裂するのは分かって観てるわけです。分かってるんですが、タイミングというか、出し方がスゴいので、思わず声が漏れてしまうんですね。

いや……まあ……ちょっとスゴ過ぎるというか、人によってはやり過ぎと感じるかもしれないのですが……俺はかなり好きです。


最近、微妙なデキの時代劇映画が本当に多いのですが、それらとは一線を画す作品なのは間違いありません。

劇場には爺さんと婆さんしか来てないんですが、若い層にもオススメしたい一本ですよ!




以下、その他原作との違いや、気づいたことなど。


・冒頭の能の演目は「殺生石」。これは、絶世の美女に化けて鳥羽上皇をたぶらかした九尾の狐の話で、映画の内容を象徴してます、たぶん。

・農民が斬首されるシーンで、農民が動かないように押さえてるのは、非人の身分の人たちです、たぶん。

・原作では主人公はブサイクという設定です(これ重要!)。トヨエツをブサイクだと思い込んで観てみましょう。あら不思議、池脇千鶴との恋バナが100倍いい話になります。

・トヨエツが布団の中で目をらんらんとさせたあと、池脇千鶴を夜這いに行くシーンは、いきなり欲情したように見えてドン引きですが、まあ概ね原作どおりだったりします。

・冒頭、トヨエツに殺される殿様の愛妾・連子(関めぐみ)は、映画ではただの悪女ですが、原作では利口で「才はじける女性」とも表現されています。キャラクターとしては原作の方が味わい深く、俺はここの変更はやや不満です。ただ、原作は "小利口な女が政治に首を突っ込むとロクなことにならん" みたいにも読めますし「女の知恵」なんてズバリの表現もあるので、難しいところかもしれません。

・ご別家(吉川晃司)は、映画では民衆の味方の善玉っぽく描かれていますが、原作ではやや複雑な経緯を持った藩政への批判者として登場します。俺としては、この変更は最後の戦いの不条理さが増して良かったんじゃないかと思っています。

・津田(岸部一徳)は、原作ではトヨエツより若い設定で、派閥争いに長けたクレバーな中老という感じです。これも一徳にして良かったと俺は思います。

・本作の舞台は海坂藩(うなさかはん)。藤沢周平の小説によく出てくる架空の藩ですが、庄内藩(今の山形県)がモデルといわれています。ちなみに、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』『武士の一分』も全て海坂藩が舞台です。

<追加>

・あ、そううそう、映画のクライマックスの超重要な台詞「こときれています」は原作にはありません(笑) 賛否ありそうですが俺は支持したいです



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