学長の奮闘(2)
弁当で学生ときずな構築
学生の成長を願い、じかに接触しようとする学長が選ぶ方法。「大学の実力」調査では、学長室の開放が目立った。だが学生に学長室へ足を運んでもらうには、仕掛けが要る。静岡県立大学の木苗直秀学長の場合、それは弁当だ。
毎年、新入生に「お弁当を持っておいで」と呼びかけ、来室を待つ。自身は毎日昼夜2個の弁当を持参し、手ぶらで来る学生用にラーメンも備蓄し……。学生時代も含めると、同大在籍は半世紀。学生を伸ばすには教員とのきずなづくりが大切、その元となる本音のやり取りには「食べながらが最適」と考えるためだ。
人間関係の悩み、大学への不満などを抱えて足を運ぶ学生は絶えない。10月初めには、野球部員16人が弁当を持って集まった。国際関係学部3年の青木克人さん(25)が前回訪問で訴えた運動場の草刈りがすぐ実行されたことを、「開かれた学長室の意味がわかった」と喜ぶと、学長から「次は野球部でやるので活動費をと交渉しにきてごらん」と助言が飛び出す一幕も。
学生を甘やかすのでなく、目を開く場を作る。教え込むのでなく、考えるきっかけを作る。学長の姿に、大学のありようが浮かぶ。(松本美奈)
(2010年10月28日 読売新聞)