バレー界の巨人・松平康隆さん死去…五輪男子「ミュンヘンの奇跡」で金に導く

８９年４月、日本バレーボール協会の会長となり、抱負を語る松平さん

　バレーボール男子日本代表監督として、１９７２年ミュンヘン五輪で金メダルをもたらした松平康隆さんが、昨年１２月３１日午後０時２１分、肺気腫のため都内の病院で死去した。８１歳だった。葬儀は近親者のみで営まれた。６４年東京五輪でコーチとして銅メダルに貢献、翌年監督に就任し、６８年メキシコ大会で２位、ミュンヘンで頂点に立った。

　バレー界の巨人が逝った。松平さんは数年前から肺気腫を患っていた。昨年１２月１５日、夕食を取れなくなり、都内の病院に入院した。肺炎を起こしていた。持ち直して数日間を過ごしたが、大みそかに天国へ旅立った。

　葬儀は近親者で済ませた。俊江夫人はスポーツ報知の取材に「本人の希望で密葬にしました。自分のことは随時、皆さんに思い出してもらえばいい、と話していました。弱っていく自分を見せたくなかったんだと思います」。ミュンヘン五輪のメンバーにも知らせなかった。最大の功労者に対し、日本バレーボール協会は、お別れの会を３月に開く予定だ。

　慶大、日本鋼管（当時）では、９人制バレーの守備の要であるバックセンターで活躍。６４年、日本代表コーチとして東京五輪で銅メダルを手にした後、持ち前の「負けてたまるか」が爆発した。金メダルを獲得した女子と共に行われた祝勝会に、日本協会の不手際で呼ばれなかったのだ。おまけに協会幹部から「なぜ出席しないんだ」と怒られた。「男子も銅を取ったのに、マスコミにも大きく取り上げられなかった。今に見ていろ」という気持ちになったという。

　「金メダルを取るためには何でもやった」と言う通り、血へどを吐くほどの猛烈な練習を選手に課した。守備が苦手だった南将之のユニホームは赤く染まった。アクロバチックな練習や一人時間差攻撃などを生み出した。ミュンヘン五輪では大型選手を集め、スタメン平均身長は約１９０センチで、大会最長身。アジアの選手は小柄という世界の目を驚かせた。

　コートを離れても、五輪前に「ミュンヘンへの道」というアニメと実写を組み合わせた企画をＴＢＳに持ち込み、放送にこぎつけた。「女子高生が見るから販売につながる」と菓子メーカーに直談判して、スポンサーになってもらった。

　ミュンヘンでは大古誠司、森田淳悟、横田忠義の３人のエースと、巧みなトスワークの猫田勝敏を軸に勝ち進んだが、準決勝のブルガリア戦で苦戦。２セットを先取されて絶体絶命だったが、ほとんど出番のなかったベテランの南、中村祐造を投入し、奇跡の逆転勝ち。「あの試合のために２人を代表に入れていたんだ」と胸を張った。決勝では東ドイツを３―１で破り、念願の金メダルを手にして男泣きした。

　日本協会専務理事、会長時代にはワールドカップの日本永久開催を実現。テレビ局と連携して多くの大会を作り、国際バレーボール連盟の財政状況を潤した。９５年１２月、週刊誌報道による金銭疑惑で「健康上の理由」から辞任したが、０１年に名誉会長として復帰した。

　日本協会は５日、松平さんの「最期の言葉」を発表した。「バレーボール一筋に人生を終えられて非常に幸せでした。自分の人生でやりたいことは全部できましたし、思い残すことは何もない人生でした」だった。

　◆ミュンヘン五輪予選Ｌ全勝、決勝も逆転
  ６４年東京で銅、６８年メキシコで銀だった日本は、予選リーグＢ組で圧倒的な強さを披露。５試合すべて３―０のストレート勝ちし、予選を１位で通過した。

　９月８日の準決勝では、世界選手権で敗れたブルガリアに技巧プレーが封じられ、２セット先取された。窮地に立たされたが出番がなかった南、中村らを起用する“奇策”が的中。腰痛で苦しんでいた横田も痛み止め代わりに腰に巻いていた自転車のチューブをちぎって攻撃に転じ、第３セット４―７から３セットを連取して逆転勝利。３時間１５分に及ぶ伝説的一戦は「ミュンヘンの奇跡」と呼ばれた。

　９日の決勝では、速攻とフェイントを駆使する戦法に変えた東ドイツに第１セットを奪われたが、ブロック主体の戦法に変えて流れをつかみ、３―１。金を誓った東京五輪から８年で、世界の頂点に立った。

　◆松平　康隆（まつだいら・やすたか）１９３０年１月２２日、東京・品川区生まれ。慶大から日本鋼管に入社し、９人制バレーボールの選手として活躍。６４年東京五輪は男子コーチで銅メダル獲得に貢献。６５年から同監督に就任し、６８年メキシコ五輪銀、７２年ミュンヘン五輪金。７９年に日本協会専務理事に就任し、８９～９５年に会長。国際連盟副会長やアジア連盟会長、日本オリンピック委員会副会長など歴任。９８年には日本人初のバレーボール殿堂入りを果たした。