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とある魔術の禁書目録外伝 とある科学の超電磁砲『俺の“みこうと”がこんなに暴れ回るわけがない』第三話
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とある魔術の禁書目録外伝 とある科学の超電磁砲『俺の“みこうと”がこんなに暴れ回るわけがない』第三話

2013-09-19 00:00
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      1

 御坂美琴高坂京介とは連絡がつかない。
 が、彼らが立川のどの辺りにいるのかは、大体の予測はつけられた。
「とにかく騒ぎが起きている方へ行けば良い。ていうか何だありゃ!? あっちこっちでもくもく立ち上ってる灰色のって、全部ビルが倒れたヤツか!?」
「バスガス爆発よりはヤバそうな感じだけど……あれどっちが暴れてんの? 明らかに役立たずのパンピーが一人混じっているはずなんだけど、きちんと守ってもらってんでしょうね!?」
「ご丁寧に観客席を用意してからスポーツマンシップに則って戦っているとでも思うのか? とにかく急いで合流しないと!」
 紙の束を掴んだまま、上条桐乃と共に高層ビル群の倒壊地点へ向けて走り出す。
 束の正体は、ネット上の『エーテル概論』についてプリントアウトしたものだ。
「ヤツと直接かち合う前に、いくつか確認しておこう」
 距離はそこそこあるが、徒歩で辿り着けないほどではない。漫画喫茶での調査中に、震動がなかったのが不思議なほどだった。ここが『普通の街』とは違うのと何か関係しているのかもしれない。
「『エーテル概論』について俺は聞いた事もない。お前もそれは一緒。多分、こいつはどこの世界にも存在しない情報だ。ここにしか、今いる三番目の世界にしかないものだ」
「別にSF系のマニアじゃないから詳しい事は知らないケド。でも、こんなのがホントに話題を集めてんならニュースサイトとかに顔が出てもおかしくないとは思う。ニュートリノとかヒッグス粒子とか、やたらと好きなヤツっているじゃん? 何故かアニメ関係のニュースにリンク貼ってあったりするし」
 地上に溢れる粉塵はある一定のルートをなぞるように広がっていた。戦闘の痕跡を示す、分かりやすい証拠だ。おそらく、その先に美琴達はいる。
 あの粉塵の雲の中に飛び込むのは気が引けるが、流石にアスベストと出くわす事はないだろうと信じて上条と桐乃は最短距離で突き進む。
「こいつを書いて発表したのは、アリシア=マクスウェルって女性だ。年齢から考えると女の子とでも呼ぶべきか?」
「何それ、天才で少女で科学者で異端の理論を発表なんていかにもって感じじゃん」
「……一応、科学者ってカテゴリなんだな。五大元素の一つとかいうから魔術師かとも思ったけど」
「そんな論文わざわざ残す理由って何? 目立ちたがりの犯行声明みたい」
「この立川のある、三番目の世界には俺達以外誰もいないのに? インターネットが世界へ広がっていようが関係ないさ。きっとこれは、みんなに発表する事が目的なんじゃない」
「だったら?」
「『敵』……おそらくアリシアってヤツは、この立川がある無人の世界を作って、俺達を閉じ込め、自由に街を崩して攻撃してくる。言ってしまえば、世界全体を操っている。でも、ヤツ自身だって本当に全てを完璧に自分の意思で操っているのかな。学園都市の超能力だって、AIM拡散力場っていう無意識の力を微弱に放出してしまうものなんだぞ」
「じゃあ、それは……その論文は、アリシアとかいうヤツ自身も知らずに洩らしてしまった、形作ってしまったモノだっていうの?」
「言ってしまえば、あいつの記憶だな。意図せずに洩れ、物質化する事なく漂う記憶が、ネットの中のデータって形で収まった。もっと時間があれば色々調べられたかもしれなかったのにな。でも、あいつのトラウマとかが形を得て無秩序に撒き散らされるよりはマシか」
「ねえ、でも普通にゲームの攻略サイトとかも並んでたじゃん。あれは?」
「優れた研究者の趣味って、映画とか読書とか、インドア派の方に傾くもんだと思うけど? 特に脈絡もなくバスケやサッカーをプロ並に嗜んでいる方が奇妙だ」
 まるで森を遠くから眺めるか、実際に迷い込むかの違いだ。
 粉塵の中に入ると方角もろくに分からなくなる。広い道を一直線に進めば良いと頭では理解していても、同じ所をぐるぐる回っているのではないかという恐怖心が胸にせり上がってくる。
「あれがあたし達を選んで襲いかかってきた理由は? そもそもあたし達は何で巻き込まれたの?」
「さあな。俺達じゃなくて御坂達の方が優先して狙われているのも、幻想殺し(イマジンブレイカー)を持ってる俺が『飛ばされた』方もサッパリだ。調べ物には限界もある。そっちは、直接本人に尋ねるしかないかもしれない」
 入道雲のような粉塵から、抜け出した。
 その先にあったのは立体駐車場だった。
 建物の中に御坂美琴と高坂京介がいるのか、正直に言えば、上条も桐乃も半信半疑の状態ではあった。
 だが。
 直後に、パァン!! という乾いた爆発音が炸裂した。
 日本で普通に暮らしている分には、おそらく一生に一度も聞く事はないかもしれない大音響。
 桐乃の頬が、微かに引きつった。
「……な、なに、今の? ガス爆発よりは軽い感じっぽいけど」
「多分、あれは銃声じゃないか……?」
「何で!? どういう理由で! あいつも御坂美琴も、そんなの持っていなかったでしょ!?」
「その二人じゃないとしたら、可能性は一つしかないだろ」

      2

 ガシャガシャガシャガシャン、と。
 金属が潰れる重たい音が、立体駐車場の中に響いていく。まるで、鋼鉄で作った雨音。アリシアと呼ばれる少女がウェーブのように放り投げ、美琴が膨大な磁力を使って食い止めていた自動車の群れが、次々にコンクリートの床へと落ちていく音だった。
 力なく。
 意志を失ったかのように。
 傍で見ている事しかできなかった高坂京介は両目を見開いたまま、驚愕の表情で凍り付いていた。
 花火のような匂いが鼻につく。
 アリシア=マクスウェルがどこかから調達してきた拳銃の銃口から漂うものだ。
 そして。

 御坂美琴も高坂京介も反応できなかった中で、ただ一人。
 飛び込んできた巨大な影が、アリシアの細い腕をひねり、その体を手近な柱へと叩きつけている。

 何者かに命を救われたと理解していても、御坂美琴はなお状況を整理できなかった。
 一方の高坂京介は、かろうじて口を動かす。
「お……」
 喉を詰まらせたように一度途切れ、しかし今度こそ意味のある言葉を紡ぐ。
「親父!?」
「おう」
 もう筋肉を使って内側から破るために選んだんじゃなかろうかと思うほどのピッチピチのスーツを纏う巨漢が、低い声で答えた。格闘ゲームなら間違いなく玄人向けの投げタイプだ。
 言われてみれば、確かに京介の両親もここ立川に来ていた訳だが……、
「な、何でまたこんなトコに……」
「そいつは警察官に対する質問か? それとも、父親に対する質問か? どっちにしても、疑問を持たれた事自体が遺憾だな」
 高坂大介は軽く周囲を見回し、いろんな車がひっくり返っている『惨状』を目の当たりにしながら、
「俺は、目の前で子供に銃向けられて黙っていられるような人間にでも見えたのか?」
「……」
 家では見ない父親の別の顔が、そこにあった。
 しばし、京介は言葉も出ない。
 それでも思い出す。
 例えば小学校で作文を書く事になった時、授業参観や運動会なんかで多くの保護者が学校へやってきた時。警察官という肩書を持つ父親がその職務を全うしている事が、どれだけ誇らしく見えていたのかを。
 これは、敵わない。
 単に膂力や気迫がどうのこうのなんていう話ではない。
 人を助ける、という行為を具現化させたような立ち振る舞いだった。
 一朝一夕でも、ただの偶然でも、気紛れに情や義理に押し流されるように誰かが抱えた問題へ巻き込まれていく訳でもない。
 そういう生き方を自らの意思で選んで、さらには奇麗ごとでは終わらせずに、きちんと実現させている。
 そうやって助けてきた人の数が、己の足で踏み込んだ場数の違いが、一〇代の少年には決して得られない『厚み』を生み出しているのだ。
(へっ……そりゃまあ、そうだよな)
 京介は、ゆっくりと息を吐く。
 それくらいに安堵している事に、遅れて気づく。
(こっちは自分の妹の人生相談だって毎回ツギハギだらけでどうにか乗り越えるのに精いっぱいなんだ。それを生業にしている専門家なんかと張り合ったってどうにもならねえって)
「どうした?」
「いや……こりゃあ、大人ってのはすげーなって」
「当たり前だ。父親の背中というのは一生をかけて追い駆けるものだ。俺だって、未だに超えられたかどうか自信はない」
 当の高坂大介は、容疑者をねじ伏せたまま、横目だけで息子の顔を見やる。
「……それに、やってる事はおまえのそれとそう変わらん。こちらは多少の荒事と薄給がつくくらいだ」
「は?」
 父親は口の中で何かを呟いたようだが、京介の耳までは届かなかった。
 二度とは繰り返さなかったところを見ると、聞かせるつもりもなかったのかもしれない。
 大介は職務の方に頭を切り替えたらしい。
 自分の手でひねりあげた少女の方を睨みつける。
「詳しい『トリック』なんぞ知らん、俺は名探偵ではないからな。所轄に引き渡して搾り上げれば勝手に吐くだろう。……それにしても、こいつは三八のエアーウェイトか? どこから官給品を持ってきやがったんだ……」
 あれー? もう大丈夫ー? という呑気な女性の声がよそから聞こえてきた。
 へたり込んだままそちらを見る京介は、そこでもう一度絶句する。
「……今度はお袋かよ」
 京介の声がどこか硬めなのは、同年代の知り合いに自分の両親を見られるとちょっと引くという、思春期特有の『例のアレ』が発動しかかっているからだろう。
 そこまで考えて、京介はようやく気づく。
 あれ? そんな当たり前の事に頭を回すだけの余裕が戻ってきたのか、と。
 一方の京介母こと佳乃は笑顔でぱちーんと指を鳴らすと、
「ハイそんな京介は危ない事に首突っ込んだ罪で父さんからお説教を受けるようにー。事件に進んで巻き込まれても平気へっちゃら、頑丈な長男坊ですもの。ゲンコツ込みでボッコボコにしたって大丈夫よね?」
「わぁお!! 何だって今日一番の山場を迎えつつあるんだ俺!? こ、今夜の峠は越えられんかもしれん!!」
「ていうか親父お袋って呼び方、実はあんまり好きじゃないのよね。こう、全体的に言葉に品がないし。大丈夫だと思うけど、その言葉遣い桐乃に伝染させたら私がぶっ飛ばすわよ?」
チィ!! こんな所でまで兄妹格差の波が……!!」
「それより、そもそも桐乃はどこにいるのよ? あんた何で妹を放ったらかしにして見知らぬ女の子とイチャイチャしてるわけ。またケンカでもしたの?」
 かしゃん、という軽い金属音が聞こえたのはその時だった。
 取り押さえられたアリシアが、拳銃を手放して床へ落とした音かと全員が思った。
 だが厳密には違う。
 ずぶり、と。
 その細い腕をひねり上げていた高坂父こと大介の太い指が、そのまま彼女の手首の中へと沈み込んでしまう。
 アリシアの体が、高坂大介の腕の中をすり抜けている。
「ぬう……!?」
 よほどその感触が異様なのか、現役警察官が呻き声を発する。
 ずるんっ、という粘性な音を立てて、すでにアリシアは完全に拘束から解き放たれていた。
「っ!!」
 美琴が前髪から何発かの『雷撃の槍』を放つが、アリシアはコンクリート製の柱の陰へ回り込んで盾にする。『砂鉄の剣』や『超電磁砲(レールガン)』に切り替えるか、破壊した柱の破片に一般人を巻き込まないか。そんな風に、美琴がわずかに逡巡した直後、
「いた! ていうか、なんかみんな集まってる!?」
「あれがアリシアか? 写真画像と似た顔のヤツがいるけど!」
 バタバタという足音と共に、高坂桐乃と上条当麻が下りのスロープから顔を覗かせた。一瞬、そちらへ目をやったアリシアが、即座に動く。
 ツインテールの片方が、長大な剣へと変換される。
 横殴りに振るわれたそれが、躊躇なくフロア内の全ての柱を切断にかかる。
 だが。

 とっさに上条が右手を構えた直後だった。
 掌に触れた場所から、数十メートルにおよぶブレード全てが粉々に砕け散る。

「……っ!?」
 一瞬だった。
 全ての音が消失したようにさえ感じられた。
「またろくでもない『異能の力』を使うんだな」
 静寂に支配された世界を再び動かすように、上条は呟く。
 その右手の五本指を、ゆっくりと拳の形に握り締めながら。
「……でも、そういう理不尽なヤツだったら、俺の方が上だ」
 そして。
 アリシアは改めて決断する。宙を泳ぐように全身を動かし、立体駐車場の外へと飛び出してしまう。
 美琴は怪訝な顔で、
「アリシアって何? アンタどこまで掴んだの?」
 質問に対して、上条はプリントアウトした紙束を押し付けた。
「それ読めば大体分かる、質問はそれからだ。あと、さっきの見たか?」
「え、ああ……?」
 答えたのは京介だった。
「なんか、あれ、親父の体をすり抜けていったよな。ずるんって……」
「そっちじゃない。あいつは人の体をすり抜けられるのに、コンクリートの柱には『回り込んだ』。ここから逃げる時だって、床や天井をすり抜けるんじゃなくて、わざわざ建物の端まで泳いでから飛び降りた。……アリシアの『すり抜け』には制限がある。あいつはここに迷い込んだ人間の体しかすり抜けられないんだ」
 言われてみれば……と京介は呟く。
 事が『不思議な力』となれば、やはり場数の踏み方が違う。
 アナログの紙束をかったるそうにめくっていた美琴の方は、やがてその目つきを怪訝なものへと変えていく。
「……ちょっと、何これ? エイプリルフールのネタじゃないわよね???」
「ここがエーテルで作った世界か、エーテルの混じった世界かだってのは分かってもらえたか? あいつはそのエーテルってのを自由に操れるが、逆にエーテルってのが欠片も混じってない俺達の体までは干渉できない。逆に、すり抜けにもその辺が絡んでいるんだろう。俺達の体にはエーテルが入っていない。だから、あいつはすり抜けられる」
『? ???』と先ほどから思考が完全に固まっているのは、高坂夫妻だ。
 普通であれば未成年の男女、それも自分の子供達まで関わっている案件を前にして、彼らが口を出さない訳がない。が、あまりにも奇抜な意見をさも当然みたいな口振りで言われた事で、何かの歯車が空回りしているらしかった。
 先ほどの『拳銃』のように、分かりやすい脅威が目の前にあれば、話は違ったかもしれないが……。
「どうやって帰れば良いのかは未だに良く分からないけど、あのアリシアってのが鍵になってるのはほぼ間違いない。状況を察するに敵意むき出しなのは確実だし、こりゃ話し合うのはぶっ倒した後になりそうだな」
「でも具体的にどうするのよ? あいつは私の能力をほとんど弾くわよ。ひょっとすると、このエーテル概論にある『光や電磁波の媒質として機能する』ってのが関わってるかもしれないけど」
「どうだろうな。ビルの倒壊で粉塵が舞っていただろう? あれを静電気なんかで帯電させて誘導した方が構造は単純で扱いやすいと思う」
「どっちにしたって私の能力は決定打にならないわ」
「かもな。ただし、俺の右手はそういう不思議なものを全部打ち消す。何か問題が?」
「あるじゃん」
 横から桐乃が口を挟んだ。
「あんたが『あの』上条さんなら、スペシャルなのはその右手だけっしょ? あいつ、空とか自由に泳ぐわけだし。拳の届かない上空から、自動車とかビルとか一方的にドカドカ落とされたら勝ち目なしっていうか」
「それについては、手がない事もない」
 全員が上条の方を見た。
 彼は適当な調子でこう続ける。
「どうする? 俺の意見に乗ってみるか?」



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(C)KAZUMA KAMACHIASCII MEDIA WORKS
他54件のコメントを表示
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映像化しても良いんやで?
2週間前
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こういうコラボ、好きだ。同じ電撃だから出来る事だね。

京介に、解決法につながるとっかかりみたいなのを提示してほしかったけど
まあ一般人にそこまで求めるのは無茶か。
しかし、親父が出て来るのは想定外だった。
次回、どうなる?
2週間前
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いやあ、エーテル概論は強敵でしたね・・・
2週間前
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マジかまちーは伏線の張り方が上手いwww
新約8巻も良い意味でやらかしてくれたし、これは期待
2週間前
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次が待ちどうしかったなぁ^^
2週間前
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なんでガイル、チュンリーと来てナルトなんだよwww
2週間前
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で、大体思うんだが

古典読みなよとか抜かすやつほど、大した人間でもなく、大した成績でもないんだよね

本当にわかってるやつはどっちも楽しめるし
2週間前
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古典ねー
あれですか?
1000年前のラブコメとか、ハーレクインとか、ファンタジーとかの事ですか?
2週間前
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日本じゃこういうコラボは中々ないからねぇ。そのうちメディアミックスなんてされたら面白いね。
2週間前
×
うむ、面白い。次まだですか?
1週間前
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